ヨーロッパとアジアを結ぶ国際列車が行きかっていた戦前の鉄道黄金期に思いを馳せながら、ヨーロッパの駅舎を巡る旅。
パリ Nord (北)駅からユーロスターに乗り、ユーロトンネルを通って、いよいよ最後の国イギリスへ向かう。
- #1 ワルシャワ
- #2 ポズナン
- #3 ベルリン
- #4 ケルン
- #5 リエージュ/オーステンデ
- #6 ブリュッセル
- #7 パリ 前編
- #8 パリ 後編
- 特別編 1939年 欧亜大陸鉄道の旅
1939年時点の鉄道の時刻表を元に作成した仮想旅行記 - 欧亜大陸鉄道
1939年時点の鉄道の時刻表を元に作成した仮想乗換案内サイト - Toboggar - ロンドン主要ターミナル
- ルートマップ(Google Maps)
ユーロスター

(下) 制限区域から階段を降りてユーロスターホームへ 奥にThalysが見える

(下) 食堂でかったトマトスープ 巨大な何かがレンチンされてでてきた

パリ・パリ Nord 駅
ワルシャワからパリまで鉄道の旅を続けてきたが、いよいよ大陸に別れを告げてドーバー海峡を超えるときがやってきた。
ユーロスターに乗り、英仏海峡トンネルを通ってロンドンに向かうことにする。
ユーロスターが発着するのはパリ Nord (北)駅なので、三度、Nord 駅に向かう。シェンゲン協定外である(というかEUですら無くなった)イギリスに向かうには出入国の審査が必要となるのだが、ユーロスターでは乗車時にフランス出国とイギリス入国の処理を一度に行う。
パリ北駅の2階がユーロスターの乗り口となっている。頭端式ホームの一角にあるエスカレータで2階に上がると、すぐに出国審査場がある。すっかり油断してスタバで買ったコーヒー片手に列に並んでいたのだが、荷物検査で持ち込みNGと言われ、慌てて飲み干すことになった。
荷物検査を終えると、なんかぼーっと突っ立っているおっさんの前を通り抜けて...、と思ったら、そのおっさんに呼び止められた。おっさん、フランスの出国審査の人らしく、パスポートを見せろと言ってきた。いや、おっさん、ぼーっとしてないで仕事しろって...。
続いてイギリスの入国審査を終えると、ぼちぼち乗車時間となる。ユーロスターに乗る場合、1時間ぐらい前には駅についておいたほうが安全っぽい。
免税店のある制限区域を抜けると、乗務員通用口のような狭い跨線橋をわたり、ユーロスターのホームへ降りてくる。
数日前 Thalys で降りたホームのとなりのホームだが、ユーロスター用のホームは出国審査場からしか入れないように封鎖されている。
パリ・パリ Nord 駅
定刻通りユーロスターは出発した。
Thalys と比べると、車内の雰囲気はよりビジネス客向けのシンプルな内装となっている。2等車に乗ったのだが、2列−2列のシートでかなりゆったりしている。座席の方向は固定なのだが、ボックス席になっている部分と集団見合い形式になっている部分が混在していてなんだか面白い配列になっている。
Tharys との大きな違いがあるとすると、車内の売店では各商品にユーロとポンド両方の値段がついていて、どちらでも支払えるようになっていること。海を渡るといよいよユーロ圏ともお別れである。
乗車時間は2時間余り、最初の1時間ほどフランスを走り、海底トンネルを20分で通過、そのあと1時間ほどでロンドンの St Pancras (セント・パンクラス) 駅に到着する。イギリスとフランスで車窓の雰囲気が変わるのかな? とも思ったが、農村地帯の雰囲気はあまり変わらない。距離も近いので気候的に大差ないということなのだろう。
ロンドンが近づくにつれだんだんとトンネルが多くなり、最後、ロンドン西トンネルを抜けると、いきなりロンドンの街の中に出て、すぐに St Pancras 駅に到着する。トンネルの手前まで高速新線で同じような景色が続いたのに、突然ロンドンの街中に放り出される感覚はかなり新鮮。こんなのはじめて💛(まあ鹿児島中央がそんな感じと言えばそんな感じだが、桜島には申し訳ないがロンドンと鹿児島を比べるのもねぇ...)
ロンドンのターミナル

ロンドンは適当な黒丸で表されている

(右) 時刻表のぺージ とにかく読みにくい

(左上) Southern Railway (SR)
(右上) Great Western Railway (GWR)
(左下) London, Midland and Scottish Railway (LMS)
(右下) London and North Eastern Railway (LNER)
さて、ロンドンに着いたので、さっそくターミナル巡りを...と、言いたいのだがロンドンのターミナル事情は少々ややこしい。というのもターミナル駅が18もあるのだ。
早くから鉄道が発達したロンドンは、様々な鉄道会社がロンドンにターミナルを建設し、グレートブリテン島に線路を伸ばしていった。20世紀に入り、他のヨーロッパ諸国は鉄道を国有化していくのだが、イギリスはその流れが数十年遅れる。第二次大戦前までにイギリス全土の鉄道路線はBig4と呼ばれる四つの鉄道会社に集約されるのだが、最終的に国有化されるのは戦後の1948年なってからであった。その後EUの方針で鉄道の上下分割が行われ、現在ではBig4時代を彷彿とさせる会社名を冠した多数の民間鉄道が再び鉄道を運用している。
この国鉄化が遅れたせいなのか、国民性なのかは定かではないが、ロンドンではターミナルが集約されずに今でも残っている。イメージで言えば、「東京の私鉄各社が東京メトロに乗り入れず、各社がそれぞれのターミナルを維持していた世界線」がロンドンのターミナル事情ということになる。
時間的に18のターミナルを見て回ることはできないので、主要なターミナルをいくつか見て回ることにする。
ところで、いままでの国では戦前の時刻表の路線図を見てきたのだが、イギリスはというと...。1939年のイギリス全土の鉄道時刻表を網羅した Bradshaw's Guide という時刻表の路線図を見てみるが、まあ細かすぎてよくわからない。この時代のイギリスの時刻表全体に言えることなのだが、ともかくわかりにくい。Big4各社も時刻表を出しているが路線図と時刻表をマッピングするという発想がないらしく、どこに何が書かれているのかさっぱりわからない。というか、LMS以外の3社の時刻表は路線図すらない。世界の路線図を変えたと言われるロンドン地下鉄がある国なのになぜなのか?? 専門家の意見を伺いたいものである。
St Pancras
ロンドン・St Pancras 駅
さっそくSt Pancras 駅を見学。
7面14線の広いホームの真ん中あたりにユーロスターは到着した。ユーロスターの16編成に対応した長大ホームだが、トレインシェードでしっかり全体が覆われている。
もちろん頭端式ホームなので、列車をおりた乗客は列車の先頭方向に歩いていく。ホームは高架の上にあり、コンコースに降りるエスカレータが所々に設置されている。
ホームの端にはレンガ造りの駅舎が建っているのだが、こちらは現在はステーション・ホテルとして使われている。
この駅がユーロスターの発着駅となったのは2007年で、その時に駅が大きく改修されたためホームやコンコースはまだ真新しい。
外に出ると、宮殿を思わせるネオゴシック様式のステーションホテルがその姿を現す。かつては駅舎として使われていて完成したのは1868年、150年以上この地で行き交う列車を見守っている。ここは、俺的には世界5大泊まってみたいホテルの一つである。(なお、あとの4つは未定)
それにしても、ロンドンにいっても相変わらず曇り空。ただ寒さはだいぶ薄らいできたようで、ありがたい。
さて、St Pancras 駅から見て東側のすぐ隣に 某ハリーだかポッターだかで一躍有名になった King's Cross 駅 がある。また、少し離れた西側には Euston という駅がある。この3駅からはいずれも北側に線路が伸びている。
東の King's Cross はイーストコースト本線、西の Euston はウェストコースト本線の起点で、イングランドとスコットランドを結ぶ二大幹線となっている。
真ん中の St Pancras は、両本線の間に伸びるイングランド中部へ向かうミッドランド本線の起点となっている。もちろん、英仏海峡トンネルを通ってヨーロッパ大陸へ向かう高速新線・HS1のターミナルでもある。
Kings Cross



(左下) 駅舎が手狭になったため、コンコースの建物が隣に増設されている
(右下) ホームから駅舎を眺める

(下) トイレの並びの壁に無理やり作られた 9と3/4番ホーム

ロンドン・Kings Cross 駅
続いてお隣の King's Cross 駅に行く。場所的には本当に道1本隔てただけの位置関係で、地下鉄の駅は、両方合わせて King's Cross St Pancras 駅となっている。
現在の駅舎が完成したのが1852年。さすがイギリス、こちらも築170年の堂々たる歴史的建造物である。
ホームは5面8線の頭端式のレイアウト、もちろん立派なトレインシェードもある。
で、某ハリーだかポッターの話だが、あの話には9と3/4番線なる線路が出てくる。そもそも8線しかないのに9と3/4とはこれいかにと思ったが、コンコースを挟んで駅の西北側の端っこにもう一つ2面3線の短いホームがあり、そこに9番線から11番線までも3つの線路があった。ほんじゃ、そこに9と3/4番線があるのかと思ったのだが、実は9番線と10番線の間には壁もなければホームもない。ただ線路が二つ並んでいるのである。まあ、フィクションなんだからと言われればそれまでだが、もうちょっと取材したらよかったんじゃないのかい、J.K.ローリングさんよ。
小説は「フィクションだから」で片付けられるのだが、ハリーだかポッターだかで一儲けしようと企むエンタメ各社は、 King's Cross に9と3/4番線らしき何かがないと聖地ビジネスが成り立たない。困り果てた末の解決策は、ホームとはなんの関係もないちょっと離れた駅の壁にカートをめり込ませて 9と 3/4番線とするというとても雑なものであった。
いや、いくら魔法でもその向こうには線路は作らんだろうという、雑なフォトスポットだが、まんまと長蛇の列ができていたので、まあエンタメ各社の勝利である。
Euston
ロンドン・Euston 駅
一夜明けて、ターミナル巡りを再開する。本日も安定の曇り空である。
Kings Cross と St Pancras 駅の目の前の道はは Euston 通りというのだが、その通りを西に500メートルほど進むと、 Euston 駅がある。
駅ができたのは1837年とロンドンでも最古参の部類だが、現在の駅舎ができたのは1968年とかなり新しい。
シンプルな外観、広いコンコースと大きな出発表示板、コンコースからホームまで続く長い傾斜路、どことなく空港を思わせるつくりになっている。モダンではあるが飾り気の無い建物は、俺的にはフィルム時代の映画を見るようでとてもよかったのだが、ロンドンっ子には地味すぎると評判が悪いらしく、近々建て替えられるらしい。
ドーバーへ

(左) 大陸では前方を表す矢印は下向きだった
(右) イギリスは日本式に上向きの矢印

ロンドン・St Pancras 駅
ロンドンのターミナル巡りはここで一度中断して St Pancras駅に戻り、小旅行に出かけることにする。行先はドーバーである。
1週間ほど前、ベルギーのオーテンデを訪ねた。かつて大陸連絡船はオーステンデとドーバーを結んでいた。海峡を挟んだ反対側のドーバーも見ておきたいと思ったのだ。
St Pancras からはユーロトンネルに向かう高速新線・HS1が伸びているが、この線路はユーロスター専用路線ではなく、イギリスの国内線も使用している。ロンドンからドーバーに向かう際、最速のルートがこのHS1を経由するルートである。
さっそく駅の東端にある South Eastern 鉄道のホームへ向かった。
今回、ポーランドからイギリスまで旅をしてきたのだが、ドイツまでは全ての鉄道に一切改札がなかった。ベルギーでは地下鉄の一部に自動改札があり、フランスでは一部の在来線や地下鉄の入り口に自動改札があった(ただし、出口は改札がない)。どんどん改札が厳密になってきたのだが、ついにイギリスでは入るときも出る時もがっつり改札がある日本タイプになった。
改札にはQRコードリーダーも付いているので、もしかしたらとEurail PassのQRコードを翳したが、やはりNG。駅員にEurail Passを使いたいというと、ろくにスマホの画面を見ずに改札を開けてくれた。Eurail Pass、イギリスでは顔パス的な存在らしい。
ところで、イギリスに来て、自動改札以外にも道路が左側通行であることなど、いくつか日本と似ているなと親近感を感じることがあった。中でも一番、「お! 日本と同じだ」と思ったのが、駅構内などの案内板の矢印。大陸では、前方を示す矢印は日本と逆に下向きであった。慣れるまでかなりの違和感があったのだが、イギリスは↑矢印。島国同士のなんらかのシンパシーがあるのだろうか??
定刻の少し前にホームにやってきた列車は、Ramsgate 行きの列車。座席指定ではないので在来線的な位置づけなのだが、HS1ではしっかり時速200キロオーバーでぶっ飛ばす高速鉄道である。(というか、ぶっ飛ばさないとユーロスターに追いつかれる)。車両には誇らしげに Highspeed の文字が書かれている
その分料金もお高くドーバーまで40ポンド近くする。この列車はEurail Pass で乗ることができるので、これに乗るだけでかなり元が取れる計算になる。
駅を出発すると、昨日とは逆に駅を出たらすぐにトンネルに入り、どんどん速度を上げていく。HS1内はわずか3駅止まるだけで、1時間弱でドーバー海峡すぐ近くの Folkstone という駅に到着する。ここからは従来の在来線に入り、各駅停車で終点に向かう。
Folkstone から10分、一瞬、港が見えたかと思うと短いトンネルに入り、目的の Dover Priory 駅に到着する。
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