2022-07-17

関西ローカル私鉄の旅 (前編)

関西ローカル 私鉄の旅 2022/5/21-22

 今を去ること8年前、当時まだ現存していた関西私鉄共同ストアードフェアカード「スルッとKANSAI」の3日間乗り放題切符で、関西の私鉄を3日間160本の列車を乗り継いでほぼ乗り尽くした
 で、残った私鉄もスルッとKANSAI 3day チケット ケーブルカー十番勝負乗り鉄☆たびきっぷ 15私鉄制覇信楽高原鐡道・伊賀鉄道 自転車連絡大作戦でほぼ乗りつぶしている。
 今回は、それでも残った関西のローカル中のローカル私鉄を乗りぶし、関西私鉄の完全制覇を目指す。
 ターゲットは紀州鉄道、和歌山電鐵、水間鉄道、阪堺電気軌道、北条鉄道、京都丹後鉄道、天橋立ケーブルカー、嵯峨野観光鉄道の8社。天橋立ケーブルカーは、私が足掛け15年以上をかけて続けていたケーブルカー全制覇の最後の1路線でもある。
 南から北上していくので、まずは紀州鉄道の起点・御坊駅へ向かう。

紀州鉄道

紀州鉄道 紀州鉄道線 御坊 - 西御坊 2.7km (左上)ワンマンカー 乗客は私のみ
(右上)5駅8分で全線制覇
(下)運転手さんおすすめの 学問駅ホームの学問地蔵 なんだか渋い佇まいの終点・西御坊駅
御坊・御坊駅

 スタートは和歌山県御坊市の御坊駅から市の中心街まで伸びるわずか2.7キロの鉄道・紀州鉄道
 日本一路線が短い鉄道会社は成田空港と隣の芝山町を結ぶ芝山鉄道でその距離2.2キロだが、紀州鉄道はその次に短い鉄道会社ということになる。ただし、芝山鉄道は成田闘争が生んだ国策企業(正確には第3セクター)であるが、こちらの紀州鉄道は純粋な民間企業。柴山鉄道のように他の路線に乗り入れているわけでもないので、実質的に日本最短の鉄道事業者は紀州鉄道だと言える。
 考えてみれば人口わずか2万人余りの小さな町に、3キロに満たない鉄道がなぜ走り続けていられるのか謎ではあるが、特に廃線が声が聞こえることもなく、立派に営業を続けている。

 雨が降る早朝のJRの御坊駅の構内、エレベータの影に隠れるように存在する切り欠きホームが、紀州鉄道が発着する0番ホームとなる。
 起点駅にもかかわらず、改札もなければ駅員もいない。
 終発から2本目の列車に乗車したのだが、私の他に乗客はなくワンマン運転の運転手さんと二人っきりである。
 出発直前に運転手さんが「おそらく他にお客さんは乗ってきませんので、前の方でかぶり付きで見ていても構いませんよ」と、声をかけてくれた。こんな時間に乗ってくるのは鉄道目当ての客だと見透かされている。
 お言葉に甘えて前方の運転席横の窓に立つと、親切にもワイパーを可動してくれた。
 その後、本当に終点まで誰もお客さんが乗ってこなかったので、運転手さんが途中で観光バスさながらに沿線の説明をしてくれた。
 御坊駅の次の駅は「学門」という名前の駅。中学校の裏門にあるからその名がついたらしいが、駅名にちなんで合格祈願に訪れる人がいるらしい。ホームには地蔵が祀られており、すっかり学問の神となっているようである。
 運転手さんに、ホームに降りて撮影してきてよいと言っていただいたので、ちょっとホームに降りて地蔵を撮影する。御坊駅から学門駅までは1.5キロあり、実はもう全線の半分を走破している。ここから終点・西御坊駅まで3駅あるが、それぞれの駅間が数百メートルとなるので、発車するやいなや次の駅が見えてくる。

御坊・西御坊駅

 御坊駅を出発して、10分かからずに終点・西御坊駅に到着。
 西御坊駅は駅舎があるもののやはり無人駅。来た列車がそのまま折り返すだけの駅である。
 駅舎は歴史がありそうな黒塗りの建物で、古めかそうな字で「西御坊駅」と書かれている。
 おそらくかつては駅員がいたであろう窓口らしきものがり、往時の面影を残している。というか、放置されているという方が正しい表現かもしれない。
 7分後、乗ってきた列車で、御坊駅に戻る。なお、帰りはそれなりの乗客が乗り込んできた。

 御坊駅からはJRのきのくに線の快速に乗り換えて、和歌山に向かう。車内は微妙に混んでいて、各車両立っている人が1、2名づついる感じである。土曜日だが制服を着た学生が多く、なんとなく着席を遠慮していたら、その後、終点まで1時間座ることができなかった...。
 朝から、ちょっと疲れたね...。

和歌山電鐵

和歌山電鐵 貴志川線 和歌山 - 貴志 14.3km たま駅長推し過ぎで、駅舎まで「たま」化した 終点・貴志駅
和歌山・和歌山駅

 和歌山駅から東に向かって紀の川市まで伸びる和歌山電鐵。21世紀になってから設立された比較的新しい鉄道会社で、それ以前は南海の孤立線だった貴志川線を引き継ぐ形で運営されている。第三セクターではなく、純民間企業で、岡山電気軌道の100%子会社である。
 和歌山駅の東の端にある9番ホームが和歌山電鐵の乗り場である。JRの駅の中にあるが、中間改札も駅員も常駐している。
 紀州鉄道に比べたらずいぶん立派なローカル線だが、それでも全長わずか14キロあまりのミニ鉄道。
 朝の時間は途中の伊太祈曽駅止まりの列車と、終点の喜志駅まで行く列車が交互に発車する。運悪く次の列車が伊太祈曽駅止まりなので、20ほど後に発車する次の列車を待つ。その間に1日乗車券を入手。一往復するだけでも20円ほどお得になる。
 しばらくしたら、チャギントンにラップされた2両編成の電車がやってきた。
 席が埋まるほどの乗客がおり、和歌山市民の生活の足であることがうかがえる。
 と、思っていたのだが、和歌山から数駅先の駅で20名を超える外国人さんの集団が降車し、車内は閑散としたローカル線の雰囲気となった。ところで、外人さんはどこにむかったのだろうか?

紀の川・貴志駅

 同じ和歌山のミニ鉄道ではあるが、電車ということもあり紀州鉄道に比べると、どこかローカル色の薄い鉄道だなと思いながら、和歌山の街を眺めているうちに終点の貴志駅に到着した。乗車時間は約20分である。
 終点は貴志駅で、駅長がネコの「たま」であることが有名。たまさんはお亡くなりになり、現在は後継の「ニタマ」と「よんたま」の2匹が駅長として勤務しているらしい。
 しかしながら、到着した時間はまだ駅長の出勤前で、駅長ブース(!)にその姿はなかった。さすが駅長ともなると重役出勤。まあ、リモートワークの世の中、出勤を続けているというのはそれだけ仕事に情熱があるということなのだろう。知らんけど。
 終点の貴志駅にはたまのグッズ売り場もあり、さらには駅舎がタマを模している。タマ推しのすごさに圧倒されながら、貴志駅から和歌山駅へ折り返す。
 和歌山からは、水間鉄道に乗車するため、JRから南海へ乗り継いで、南海の貝塚駅へ移動する。

水間鉄道

水間鉄道 水間線 貝塚 - 水間観音 14.3km なんだかインパクトのある水間観音駅の駅舎
貝塚・貝塚駅

 和歌山から日根野まで特急くろしお12号に14分だけ乗り、りんくうタウンまで普通で移動。そこで南海の空港急行に乗り換えて貝塚駅に到着した。その間に、県境を跨いで大阪府に入ってきた。
 次なるローカル線は、貝塚を起点する水間鉄道
 水間鉄道は貝塚駅から南東の水間観音駅まで伸びる5キロほどの路線。その名の通り水間観音への参詣鉄道として大正時代に敷設された鉄道だ。かつては、このような社寺参拝を目的としたローカル鉄道が多数あったのだが、戦前までに大半は滅び、戦後も大手私鉄の路線以外はほぼ壊滅する中で、どういうわけか生き残った路線である。
 南海の貝塚駅のすぐ隣に、水間鉄道は独立した駅舎と改札を構えている。窓口を見てみると、この時間に使える昼間割引フリー乗車券があったので購入。これで往復600円のところがわずか360円となる。
 改札でフリー乗車券を見せ、東急から譲り受けたという2両編成アルミ車に乗り込む。なかなかの年代ものに見える。
 こちらも乗客は意外と多く、座席が8割ほど埋まっていた。と、思ったら、数駅先で私服の学生の集団が数十人降りて行った。急に車両は静かになり...って、ついさっき同じような光景を見たような...。ところで、学生は中学生だと思うのだが、運動部の練習試合という感じではなく、遠足風情だったのだが、土曜日に何があるのだろうか??
 貝塚駅から終点・水間観音駅までは15分、あっという間に終点の水間観音に到着する。

貝塚・水間観音駅

 終点の水間観音駅に到着。2面2線の頭端式のホームと車両基地も併設された予想外に大きな駅である。駅舎の意匠もなかなか凝っていて、往時は水間観音の参拝客でさぞ賑わっていたのだろうと想像することができる。
 その観音様に参拝したい気持ちやまやまなのだが、先を急ぐので、例によって乗ってきた電車で折り返して、貝塚駅に戻るとする。

阪堺電気軌道

南海の浜寺公園駅から徒歩3分、阪堺の終点浜寺駅前停留所 阪堺電気軌道 阪堺線・上町線 浜寺駅前 - 天王寺駅前 13.8km 阿倍野ハルカスの真横の天王寺駅前電停
堺・浜寺駅電停

 貝塚駅から南海の急行と普通を乗り継いで、浜寺公園駅に到着。この駅から海側へ100メートルほど進んだ道路の脇に阪堺電車の浜寺公園電停がある。
 阪堺電車は大阪市内の天王寺と恵美須町を起点に堺方面に伸びる路面電車。今回のローカル線の旅の中では比較的メジャーに位置する鉄道会社なのではないかと思う。
 路面電車とは言え、終点の浜寺公園には小さな駅舎があり、駅員も常駐しているようだ。あとで気が付いたのだが、ここで一日乗車券を買っておけば少し運賃を節約できたのだが、ついついSuicaをかざして電車に乗り込んでしまった。
 浜寺駅を出発すると、併用軌道や専用軌道を渡り歩き、途中、住吉大社の真横の住吉電停に到着する。ここで線路が二股に分かれ、右側が天王寺へ向かう上町線、左側が恵美須町へ向かい阪堺線となる。名前からすると阪堺線の方が本線っぽいが、大半の電車は天王寺方面の上町線に直通し、阪堺線の恵美須町方面は3、4本に1本程度とかなり過疎化して上に、途中の我孫子道止まりとなっている。よって、浜寺公園から乗り込むと全ての電車が、住吉から右に曲がり、天王寺方面に直通する。
 住吉から先は、目に見えてどんどん自動車の交通量が増えてくる。時々信号に行く手を阻まれながらなんとか天王寺駅の南西側の停留所に到着した。
 あべのハルカスのすぐ脇にある停留所は道路の真ん中にあるが、左右の歩道に向かう横断歩道はなく、駅から脱出するためには地下に潜るか上空の歩道橋に移るしかない。
 これにて上町線は制覇したが、阪堺線の住吉から恵比須間を乗車していないので、地下鉄御堂筋線、堺筋線を乗り継いで阪堺線の始発駅、恵比寿町電停に向かう。

ひっそりと物陰に隠れる恵美須町 阪堺電気軌道 阪堺線 恵美須町 - 住吉 4.5km 実に電停らしい電停 住吉電停
堺・恵比須町電停

 地下鉄恵比須町駅から改札を出て、案内表示に沿って阪堺電車の恵比須電停を目指すのだが、いつまで歩いてもその姿を見せない。
 調べてみると、2年ほど前、もともとは地下鉄駅にほど近かった場所を再開発に明け渡し、駅の位置を100メートルほど南へずらしたのだそうな。土地を切り売りしながら鉄道経営を続けるというのはなんとも本末転倒だが、まあ、それも時代の流れである。
 とは言え、南に向かってもなかなか恵美須町電停が見つからない。なんとか、工事現場の柵の奥に隠れるかのようにある入り口を見つけたのだが、阪堺線に乗ることは非合法な何かなのだろうか??
 なんともひっそりとした場所にある恵美須町電停だが、移転したばかりで真新しい。ここから二股に分かれた住吉電停を目指す。
 電車自体は上町線となんら変わらないのだが、車窓は結構違う。上町線は交通量の多い街中の路線だが、こちらは住宅地の道路を走るバスのような景色。特に、住吉の手前の紀州街道は道幅が狭く、道路の北行きの車線をふさぐようにように複線の線路が敷設されている。自動車は電車の隙間を縫うように走ることを強いられ、見ているとなかなかスリルがある。これぞ、路面電車の醍醐味である。
 興奮冷めやらぬまま住吉に着いたところで、阪堺電車の全線を制覇。折り返しの電車を捕まえて新今宮駅に戻り、次の北条鉄道へ向かう。

北条鉄道

北条鉄道 北条線 粟生 - 北条町 13.6km キハ40形気動車導入記念 「飛び出すフリー切符」 何もない場所にホームだけある場所を勝手に想像していたが、北条町駅は意外と都会
小野・粟生駅

 新今宮から大阪環状線で大阪駅へ、神戸線に乗り換え加古川、さらには加古川線に乗り換えて粟生駅にたどり着いた。約1時間半の長旅で大阪を抜け兵庫に入った。
 ここから13キロ先の北条町まで伸びるのが北条鉄道、国鉄北条線から転換した第三セクター鉄道である。
 この手の鉄道は全国でまだ多数生き残っているが、その典型とも言える鉄道で、JRの中途半端な駅を起点とし、中途半端な場所まで鉄道が伸びている。税金で野放図に鉄道を作り続けるということがどういうことなのか思い知らされる。
 粟生駅は、神鉄粟生線の終点でもあり、8年前のスルッとKANSAI 3day 1192.5km 完全制覇でも訪れている。神鉄、JR、北条鉄道どれもが過疎路線なのに、3社の乗換駅というアンバランスさが記憶に残った駅である。(関東だと、寄居駅がこの雰囲気ににているが、関東だと辺鄙な駅でも駅舎がやたらと立派になっちゃうよね)
 粟生駅から北条町駅へは20分、少々。2両編成の車両にそれぞれ数十人乗っていたので、思ったよりは繁盛している。それもそのはずで、終点・北条駅は意外と都会。駅の目の前にちょっとしたショッピングビルがあり、さらに徒歩圏内にイオンモールがある。誰も降りない廃墟の駅を想像していたので、良い意味で裏切られた。
 調べてみると、一日乗車券と往復乗車券の値段が同じだったので、北条駅で一日乗車券を購入する。どうやら最近新しくJRから中古車両を購入したらしく、その記念の一日乗車券を販売してくれた。乗車券はものすごく巨大で、飛び出す絵本形式になっていた。
 乗車券を購入し、駅前を軽く覗き込んで、やはり次の折り返し列車で粟生駅に戻ることにする。

小野・粟生駅

 北条鉄道の次は、数年前ツアーバス会社に運営が変わった京都丹後鉄道に乗車する。
 だが、そのためには加古川線でさらに先に進み、終点の谷川駅で福知山線に乗り換え、福知山駅に向かう必要がある。粟生から谷川までは30分、それはよいのだが、その後福知山線が過疎ダイヤで、乗り換え時間が50分ほどある。
 谷川駅、何か時間が潰せるような駅だとうれしいのだが...。

谷川駅の1時間

谷川駅で谷川線から福知山線に乗り換える やっとやってきた福知山行きの丹波路快速
丹波・谷川駅

 なんとなく予想はしていたのだが、谷川駅は加古川線と福知山線が交わる駅でありながら、全くのローカル駅。ま、そりゃローカル線とローカル線が交わったところで...、ということである。降りた乗客は僕一人。駅員もおらず、駅前に車の通りもほとんどない。ただ旧国鉄あるあるで、駅舎だけはやたら立派である。
 朝から列車に乗り続け、お腹も空いてきたのでコンビニの一つでもと期待したのだが甘かった。駅舎の中に自販機はあるがジュース以外で手に入るものと言えば、おなじみセブンティーンアイスのみである。背に腹は代えられぬと、時間つぶしも兼ねてチョコミントアイスを購入する。
 固めのパサパサしたアイスなのだが、なぜか憎めないセブンティーンアイス。うん、好き。
 そんなことをしていても53分の待ち時間はなかなか長い。駅前をうろうろして、人っ子一人いないことを確認し、駅の待合室に戻る。雨が降ってきて、気温も下がってきた。
 そんな中、葬儀を終えたらしきご老人5人組が2台のタクシーに分散してやってきた。ちょっとは駅がにぎやかになるかと思いきや、駅の待合室に入るや否か大宴会である。
 話題は、はやりのコロナ陰謀論と某ロ国の陰謀論。
 うんざりして、待合室を出て、申し訳程度の屋根がかけられたホームで、雨の中丹波路快速を待つとする。寒い...。

丹波・谷川駅

 すっかり日が落ちて闇に包まれつつある谷川駅に223系4両編成の快速列車がやってきた。
 谷川から福知山までは46分。まあまあの長旅となる。
 終点で降りればよいし、次の乗り換えは時間的余裕もあるので、一休みすることにする。おやすみなさい。

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