2023-04-18

ヨーロッパ横断 駅舎をめぐる旅 (#4 ケルン)

 ヨーロッパとアジアを結ぶ国際列車が行きかっていた戦前の鉄道黄金期に思いを馳せながら、ヨーロッパの駅舎を巡る旅。
 本日はベルリンからケルンへ移動するのだが、途中ヴッパータールという街に立ち寄る。
 そこに何があるかというと、現存する世界最古のモノレールがあるのだ。非鉄輪鉄道好きとして、ここを素通りするわけにはいかない。

ICEでケルンへ

(上) 駅に貼っている時刻表 出発が黄色で到着が白なのはヨーロッパ共通
(下)ホームには列車ごとの車両の停車位置が掲載されていた なんて親切 ただし、日によっては列車が反転して入線してくるようだ... (上) ICE 1等車の車内
(左下) 座席指定されている座席は指定されている区間が表示される
(右下)「せいむわん!」作戦でゲットした朝食
ベルリン・Ostbahnhof 駅

 本日の行程は、ベルリンからドイツ西部の大都市・ケルンに移動する。ベルリンからケルンまではICE(ドイツの高速鉄道)1本で行くことができるのだが、ケルンの手前のヴッパータールへ少し寄る道をする。ヴッパータールにある現存する世界最古のモノレールに乗るためである。
 早朝、Ostbahnhof (東) 駅にやってきた。今日は雨こそ降っていないが、あいかわらずどんよりとした空模様。
 例によって車両番号から乗車位置を確かめるため、駅に貼ってあった列車ごとの停車位置表を確認する。うんうん、この辺りだなと思ったのだが、電光掲示板には違う情報が書かれていた。どうやら列車は8両編成の二つのユニット併合しているようなのだが、そのうち前半分のみ前後が入れ替わっているようだ。ヨーロッパの列車で自分の車両を探すのは、なんだかとても難しい。
 とは言え、ポーランドとは違い、指定された位置にちゃんと列車は停止した。本日ももちろん1等車に乗り込む。ベルリンからヴッパータールまでは4時間ほどの旅程である。
 定刻になると、やはり列車は何の前触れもなく動き出した。ポーランドの車両も静かだったが、ドイツの車両はまた一ランク高いレベルで静か。駅を出たことに気が付かないレベルでそーっと動き出し、気が付いたら高速運転を始めている。
 ドイツのICEも1等車は2列+1列の広々シート。出発後しばらくして、アテンダントがやってきたがドイツのICEは飲み物サービスはないらしい。その代わり飲み物や食事の注文を取ってくれ、食堂車から食事を運んでもらえる。隣のドイツ人がおいしそうなハムチーズのサンドイッチを食べていたので、それを指さし「せいむわん!」と叫び、無事朝食をゲットした。

 今回はEurail Passで移動しているので、どこの国でもスマホのQRコードを表示することで移動できるのだが、乗車のルールは国ごとにいろいろ違いがあり、なかなかややこしい。
 ドイツの場合特徴的なのは、すべての特急に座席指定なしで乗れるということがある。ICEは1等も2等も有料で座席指定をすることができるのだが、座席指定は必須ではない。座席指定しない場合どうなるかというと、空いている席に適当に座ることになる。
 どの席が空いているかは、各座席の上にある液晶表示で確認可能で、親切にも座席指定されている区間まで表示されている。さすがドイツ、実に合理的である。

ヴッパータール駅

(上) ICE車内の食堂
(下) なんらかのトラブルで Hamm 駅で30分停車した ヴッパータール新駅舎 ヴッパータール旧駅舎 ヴッパータール駅からまっすぐ歩くと市街地に入っていく 市街地に入る手前の端を見上げると、モノレールの軌道がある
ヴッパータール・ヴッパータール Hauptbahnhof 駅

 途中ドルトムントやハノーファーなどの都市を通過したせいか、ポーランドよりもずいぶん車窓が変化に富んでいたように見えた。
 原因はわからないが、途中、ハム駅で30分程電車が止まっていたため、予定遅れて4時間半かかってヴッパータールへ到着した。
 ヴッパータールは3面5線の通過型の駅。正確には ヴッパータール Hauptbahnhof (中央)駅と名付けられている。
 地上駅なのだが、段差がある地形なのかホームと同じ高さにも出口があり、ホームの階段を降り、さらに1階分ぐらい階段を降りたレベルにも出口がある。
 メインの出口はホームからみて地下のレベルの方で、2018年に建てられた近代的な駅舎に繋がっている。伊東豊雄氏の傑作建築である"せんだいメディアテーク"を彷彿させるチューブを組み合わせた柱が広い空間を演出している。
 新しい方の駅舎から外に出ると石畳風の広場があり、街へとつながっている。  一方、ホームと同じ高さの出口を出ると、すぐ横に19世紀末に建てられた古い駅舎がある。こちらの出口にはバスターミナルが隣接されている。

 駅舎を出て、数分歩いて川を超えると、店が並ぶ市街地に入っていく。
 この市街地と駅の間にある川の頭上にお目当てのヴッパータールの空中鉄道のレールがある。
 建設時にモノレールを敷設する土地をねん出できず、川の上にレールが敷設された経緯があり、川に沿ってレールが続く構造になっているらしい。
 ほどなくしてモノレールがやってきたが、なんと客車がレールからぶら下がる懸垂式のモノレールであった。客車からのびるアームは片持ちで、高架の上にあるレールの上に鉄輪をひっかけるような形で走行している。
 いや、鉄輪を懸垂しながら走行するモノレール。ちょっとエモすぎはしませんかね???

ヴッパータールの空中鉄道

ヴッパータール空中鉄道

ヴッパータール空中鉄道駅
外は新しめだが、中はかなり年季が入っている 鉄輪でぶら下がるモノレールの迫力を見よ オーバーバルメン駅 フォーヴィンケル駅
ヴッパータール・空中鉄道 Hauptbahnhof 駅

 ヴッパータール駅前の空中鉄道の駅は Hauptbahnhof (中央) と名付けられている。駅舎もまた川の上に造られているようだ。
 空中鉄道ができたのは1901年で、現在の Hauptbahnhof 駅舎ができたのが1923年。世界最古のモノレールというだけあり、なかなかに年季が入っている。
 駅舎の外観はおそらく近年に手直しされたように見えるのだが、一歩中に入るとなかなかの年代もの建物だと実感できる。エスカレーターなどというしゃれたものはなく、それなりの高さのあるホームまでは階段で登らなくてはならない。
 空中鉄道は Hauptbahnhof 駅を中心に東西に線路が伸びている。東の端も西の端もDB(ドイツ国鉄)の駅の近くにあり、ヴッパータール駅と合わせてDB路線とほぼ平行に3駅を結んでいる。
 ドイツの他の鉄道と同じく駅に改札はないため、ホームにあがってから券売機で切符を購入する。空中鉄道の両端の駅まで行って戻ってくるので1日乗車券を買うことにした。あとで、よくよく値段を見たら7.7ユーロとまあまあのお値段だったのだが果たして片道乗車券を3枚買うよりお得だったのだろうか?
 買った切符は例によって日付を印字してアクティベートしなくてはならないと思うのだが、日付を印字する機械が見当たらない。
 そもそもの話だが、アクティベート処理ってなかなかの曲者で、機械が駅にあるパターンと列車の車内にあるパターンがある。「ふむふむ、これは車内でアクティベートするタイプやな」と判断し、やってきた列車に乗車したのだが、車内にも機械が見当たらない。
 運悪く発車直後に車掌が検札に来てしまったので、仕方なくアクティベートされていない切符を見せたのだが、「お前、アクティベートしてないがね」という感じでむっちゃ怒られてしまった。
 切符を取り上げた車掌が、次の駅で俺の代わりに日付を印字してくれた。いや確かに駅に印字する機械はあったのだが、とても小さかった。いや、わからんって...。

 気を取り直して、世界最古のモノレールの乗車を堪能することにする。
 このブログでも何度か言っているのだが、懸垂式のモノレールこそ至高の乗り物である。空中を浮遊するような車窓、カーブの度にさっそうとそのボディーを傾ける姿が実に素晴らしい。サフェージュ式(千葉モノレールや湘南モノレール)に比べると速度が遅く、カーブ時の左右の傾きの迫力は欠けるが、鉄製の軌道の重厚感がそれを十分に補ってくれる。
 いいぞ、空中鉄道!

ヴッパータール・オーバーバルメン駅

 空中鉄道の東の終点・オーバーバルメン駅に到着。
 ヴッパータールの空中鉄道は一方向にしか進むことができない構造となっている。そのため、終点に着くと折り返しではなく、ループ線を回って向きを変えて駅に戻ってくる。
ループ線をくるっと回る姿もかっこいい。空中鉄道を作った人、いろいろとわかっていらっしゃる。

 再び列車に乗り込み、反対側の終点・フォーヴィンケルへ向かう。
 空中鉄道は全長13キロ、端から端まで30分。地下鉄レベルのスピードである。
 この時気が付いたのだが、一方通行の車両の運転台は前方にしかなく、後方はガラス張りのパノラマ空間となっていた。
 先に特等席に座っているお子様と家族連れの後ろから遠慮がちに様子を眺めたが、空中浮遊感がとてもよい。

ヴッパータール・フォーヴィンケル駅

 30分後にフォーヴィンケル駅に到着。
 ここでも当然車両はループ線に入っていく。いや、見飽きないね、これ。

ケルンへ

ヴッパータール Hauptbahnhof へ戻る (左) ヴッパータール Hauptbahnhof (右) ケルン行きの快速列車の座席
ヴッパータール・ヴッパータール Hauptbahnhof 駅

 とても名残惜しいのだが、先に進まねばならないので、もう一度空中鉄道に乗り、ヴッパータール駅に戻ってきた。
 ヴッパータールからは普通列車に乗り、本日の最終目的地・ケルンに向かう。
 列車の遅れはまだ回復していないらしく、あいかわらず20分遅れで列車が到着する。
 ケルンまでは快速列車に乗車。快速にも1等車と2等車があり、座席もロングシートではなく、ちゃんとクロスシート。ゆったりと座ってケルンへ向かう。

ケルン駅

1939年のドイツの時刻表 ケルン周辺の路線図 ケルン駅とケルン大聖堂 ケルン駅のトレインシェードの中 ライン川に架かるホーエンツォレルン橋 ホーエンツォレルン橋からケルン大聖堂の裏側が見える
ケルン・ケルン駅

 ヴッパータールから30分ほどで、ケルン Hauptbahnhof (中央) 駅に到着。
 ケルンはドイツ4番目の都市であるが、鉄道の要所という意味では国内で最も重要な場所といえる。ケルンを中心に、ハノーファー、ハンブルク、ベルリン方面、フランクフルト、ミュンヘン方面、アーヘンからその先のベルギー、フランス方面、デュッセルドルフからその先のオランダ方面に線路が伸び、様々な方面からきた列車が様々な方面に向かってひっきりなしに出発していく。
 これは戦前も今も変わりはない。1939年のドイツの時刻表の路線図を見ても、ケルン駅からありとあらゆる方向に列車を走らせることができる構造になっていることがよくわかる。
 ケルンと言えば、ケルン大聖堂が有名だが、駅は大聖堂のすぐ目の前にあり、駅も含めてケルンのランドマークとなっている。
 現在のケルンの駅舎は戦後に再建築されたもので、ケルン大聖堂との調和が図られたデザインとなっているそうだ。
 ホームの端からは、11の線路を覆うトレインシェード越しにケルン大聖堂を眺めるると、確かに実に映える。

 ケルン Hauptbahnhof 駅のすぐ脇にライン川が流れており、東側に出発する列車は駅を出てすぐに左に大きくカーブし、ホーエンツォレルン橋を渡って対岸に向かう。
 ホーエンツォレルン橋はケルン Hauptbahnhof 駅と同時に開通しし、その後、1911年にかけ替えられた大きな橋である。3つのアーチのあるトラス橋となっている。
 橋はその後何度か拡幅され、現在では意匠を合わせた橋が3つ並び、その上を6つの線路がライン川をまたいでいる。
 橋の両側には歩道があり、ライン川の上からケルン大聖堂の塔を眺めることができるようになっている。

ケルン大聖堂

ケルン大聖堂 ケルン大聖堂の中 挿入方向を間違え、QRコードの上に日付を印字してしまった... ヨーロッパの都市にはどこでも電動キックボードが置かれている
どこでも借りることができて、どこでも乗り捨てができる
ケルン・ケルン大聖堂

 翌日、空は暗くなり寒さが厳しくなってきたが、ケルンのシンボル、世界遺産でもあるケルン大聖堂を見学する。
 この地に大聖堂ができたのは4世紀であるが、現在の建物は3代目で1880年に完成したものだ。ただし、3代目の塔の建設は13世紀にはじまり、何度かの中断をはさみながら、600年の歳月をかけて建設された。600年の歳月が必要だったかどうかは定かではないが、繊細かつ巨大な建築物であるこの大聖堂を建造するにはそれ相応の年月が必要だったことは容易に想像できる。
 中の見学は自由に行うことができ、凛と静まり返る広々とした空間に圧倒される。なお、有料で塔に上ることができるらしいが、俺は体力的に辞退させていただいた。

 ケルンの市内交通は、地下鉄とトラム、それにSバーンなどがあり、例によってチケットは共通である。トラムはケルン市街地では地下鉄となって郊外まで走っていく。かなり長距離を走るトラムもあり、隣の市であるボンと一体的に運行されている。ボンと言うと我々世代は、西ドイツの首都だったあの「ボン」か、とピント来るのだが、きっと今では無名の市なのだろうか?
 この日、ホテルからケルン大聖堂に移動するため切符を買い、駅で日付を印字したのだが、またしても失敗してしまった。印字する機械につっこむ方向を間違えたらしく、切符に印刷された二次元バーコードの上に日付が印字されてしまった。しかも、うまく差し込むことができず、2度印字してしまう始末。
 車掌に見つかったらまたこっぴどく怒られそうだったが、今回は検札はなく、無事に乗車を終えることができた。
 外国の電車に乗るのは難しい。きっと日本に来た外人さんもいろいろ苦労しているんだろうなぁ。なによりも鉄道会社多すぎ問題が一番のネックのような気がするね。

 ところで、ヨーロッパの都市は電動キックボードでの移動がものすごく便利になっている。
 街中どこでもキックボードが置かれ、すぐに借りることがデキるし、どこでも乗り捨て可能。
 数キロの移動ならこれ一つで素早く移動できる。マイカーの登場以来のモビリティの革命じゃないかと思った。

0 件のコメント: