2023-04-22

ヨーロッパ横断 駅舎をめぐる旅 (#7 パリ 前編)

 ヨーロッパとアジアを結ぶ国際列車が行きかっていた戦前の鉄道黄金期に思いを馳せながら、ヨーロッパの駅舎を巡る旅。
 ブリュッセルから国際高速鉄道 Thalys に乗ってパリにやってきた。

パリの朝

バスティーユ広場で朝市をやっていた
ロティサリーチキンが美味しそうだった... (上) どこの路地も絵になるパリ
(左下) バスティーユ広場のシンボル 7月の柱
(右下) 近くのカフェで朝食
パリ・バスティーユ広場

 パリのターミナルを見て回ろうと、朝、ホテルを出たのだが、少し歩いただけで町並みの美しさに感動してしまった。
 泊まっていたホテルはバスティーユ広場の近く。パリの中心部からは少しだけ離れた場所にも関わらず、スカイラインの揃った美しい建物が立ち並んでいる。大通りから少し入った細い路地もやはり「パリの街」の様式が保たれている。ヨーロッパの各都市には旧市街と称した整った街並みはどこにでもあるのだが、パリはパリ中心部は、古い建物も新しい建物も全てが「パリの街並み」の一つのパーツとして役目を果たしている。
 パスティーユ広場では、朝市が開かれていて、食材を中心に様々な品物が売られている。ただ街を歩いているだけなのに、とても楽しい。さすが花の都である。
 ただ天気はあいかわらず曇り。ヨーロッパに来てから晴れた空を見た記憶がない...。

パリのターミナル

1938年のフランス国鉄の時刻表の路線図
パリのターミナルは大きな円で表され、円に沿って接続するターミナル名が書かれている

 パリの街並み散策は程々に、ターミナル巡りを始める。
 まずは1938年ごろのフランスの時刻表の路線図を見てみる。パリ駅は大きな円で表されているのだが、よく見るとの上から時計回りに、NORD, EST, LYON, ORSAY, M.I, ST LAZの6つの文字列が書かれている。
 これらはそれぞれ、Nord (北), Est (東), Lyon (リオン), Quai d'Orsay (オルセー), Montparnasse (モンパルナス) (IはInvalides アンヴァリッドの略で、一部の列車は近くのアンバリッド駅から発着していた), Saint-Lazare (サンラザール)の略で、パリにある6つのターミナルを表している。路線図上大きな円で表されているが、到着する駅は6箇所あるということである。
 実はこれらのターミナル、Quai d'Orsay が Austerlitz (オステルリッツ)に代わった以外、今でも現役である。接続する路線も大きな変化はなく、駅舎もほぼ残っている。
 これらのターミナルを順に見ていく。

Est

Paris Est 駅舎 Paris Est ホーム (左) フランスの駅の時計もやはり秒針がある
(右上) コンコース
パリ・パリ Est 駅

 最初に向かったのはEst (東) 駅である。東駅と行ってしまうと、パリの東にありそうだが、「東に向かう列車が発着する駅」という意味で、位置的にはパリの北側にある。
 駅ができたのはナポレオンの時代1849年。何度か大規模に拡張されたものの、その頃の駅舎も西半分側に残っている。白い外壁の駅舎はパリの街並みにある建物群と調和して、いかにもパリらしい駅舎となっている。
 この駅からはフランス国内の列車だけでなく、数多くの国際列車も運行されてきた。古くはオリエント急行の始発駅であり、現在はドイツフランクフルト方面などの高速鉄道が発着している。
 15ホーム、29線もの線路がある頭端駅。方面別に大きく2つに別れていて、さらに長距離用と近郊用に別れている。フランスはドイツやポーランドと違い、地下鉄や近郊路線には自動改札が設置されている。トレインシェードはなく、日本の駅のようにホームに屋根がかけられていて、他の駅よりも明るい印象がある。

Nord

Nord 駅舎 ホームとコンコース
コンコース2階はユーロスターの出入国審査場 駅舎には23体の彫刻が飾られている
右側は拡張された駅舎 パリの駅構内のサインボードのデザインがかっこいい
パリ・パリ Nord 駅

 Est駅から歩いて5分ほどの距離に、Nord (北)駅がある。
 現在の駅舎が完成したのが1865年。かつてパリからワルシャワなど東ヨーロッパを結んだ豪華列車・Nord-Express (北急行)もこの駅から出発した。
 現在でもユーロスターやタリスといったヨーロッパを代表する国際列車が発着するパリを代表する花形駅である。
 駅舎のファサードには23体の大きな彫像が飾られている。これは、当時この駅から出発する列車の行き先をイメージしてつくられているのだそうな。もちろん、行き先はフランス国内だけでなく、ロンドン、ブリュッセル、ベルリン、ワルシャワ、アムステルダム、ウィーンといった遠く離れた異国の地も含まれている。
 頭端式ホーム15面28線と Est 駅とほぼ同じ規模だが、ホーム全体にトレインシェードがかけられているせいかとても広く見える。
 駅構内はともかく人で溢れている。ホームはもちろん、構内のスタバも長蛇の列。フランスはおろか、ヨーロッパ一利用者の多い駅なのだそうな。

 パリに来るのは今回が初めてなのだが、20年ほど前、一度、シャルル・ドゴール空港でトランジットしたことがある。その時、とても印象的だったのが、ターミナルやゲートを案内するサインボードのデザイン。灰色時に黄色という配色で統一されていて、その当時の日本では見たことのないデザイン性の高さとかっこよさに感動した。
 それを思い出しながら改めてパリの駅のサインボードを眺めたのだが、やはりかっこいいし、とても見やすい。他国との違いはほんの少しのデザイン性だと思うのだが、そこにこだわるフランスはやはり芸術の都である。

パリの地下鉄

(上) パリの地下鉄駅
(左下) 地下鉄の車両 わりと小型
(右下) 1日乗車券 Mobilis

YouTubeに転がっていたパリ地下鉄のジングル

SNCF(パリ国鉄)のジングルは歌 これもかっこいい

パリ・パリ Nord 駅

 続いて地下鉄に乗り、セーヌ左岸の Montparnasse (モンパルナス)駅へ移動する。
 パリの地下鉄は他のヨーロッパ諸国と同じく、市内交通のバスとRER(近郊電車)と共通の料金体系となっている。ただし、ドイツやポーランドと違い時間制ではなくゾーン制。パリとその郊外をゾーンに区切りどのゾーンまで行くかで運賃が決まる。
 本日は1日乗車券に相当する Mobilis というきっぷを利用しているのだが、1日乗車券もゾーンの指定が必要。一番安いのが1ゾーンと2ゾーンのみ有効という区分だが、この区分でパリ市内は全て移動することができる。
 Mobilis は日本のきっぷよりもやや細長い磁気きっぷで、裏側の真ん中に磁気の黒い線が入っている。日本と同様に自動改札に通して乗車する。やっと、"アクティベート"の呪縛から逃れることができた。
ただ、出口はフリーパスなのでやはり半分は信用乗車であるようだ。
 ところでパリの地下鉄では、各種アナウンスの前に短いジングル(チャイム)がなる。日本だと ♪ピンポンパンポーン となるところが、ギターサンド(?) でとても心地よい。どこまでおしゃれなんだよ、パリは。

Montparnasse

Montparnasse 駅舎 Montparnasse ホーム 駅構内はショッピングモールになっている
パリ・パリ Montparnasse 駅

 地下鉄4号線で、17分、14駅移動して Montparnasse 駅に到着。
 Montparnasse もまた、他の駅と同じく19世紀から歴史があるのだが、現在の位置に移転しきたのが1965年と比較的最近の駅となる。
 そのため、他の駅舎とは異なり、駅の面構えは「ビル」である。
 28の線路は Voie 1から3までの3つのエリアに別れているため、駅構内全体も3つのエリアに別れている。
 線路の上を覆っているのはトレインシェードではなく人工地盤。そのせいか高架駅なのに地下駅のような雰囲気がある。なお、人工地盤の上は庭園となっているそうな。
 駅舎内部の低層階はショッピングモールとなっていて、関西の私鉄ターミナルのような雰囲気もある。
 フランス西部のルマンやボルドーなどの列車がここから発着する。

Saint-Lazare

Saint-Lazare 駅舎 駅舎は横に長いのだが、すぐ目の前にホテルが建っているため全容を眺めることができない
右側に少し見切れてい建物がホテル 長い駅舎の中はアーケード風のショッピングモールとなっている ホーム手前のコンコースとホーム どこを切り取っても美しい Saint-Lazare 駅
パリ・パリ Saint-Lazare 駅

 地下鉄でセーヌ右岸に戻ってノルマンディー方面の列車が発着する Saint-Lazare (サン・ラザール) 駅に移動する。モネが駅を行き交う蒸気機関車の絵を残したことでも有名な駅である。
 現在の駅舎が建設されたのは1889年、左右対称の大きなホールをもつファサードがとても印象的である。
 パリの他のターミナルは、長い歴史の中で拡張されてきたものの、拡張部分がきれいに接続できていない部分が多かれ、少なかれある。一方、サン・ラザール駅は、駅舎もホームも駅正面に対してきれいに平行に並んでいてとても美しい。
 27線もの線路のある頭端式のホームも、やはり頭を揃えてずらりとトレインシェードの中に並んでいる。
 駅舎の中は近代的に改装され、3階まで吹き抜けのアーケード商店街となっている。
 パリのターミナルの中で、どれか一つを選ぶのであれば間違いなくサン・ラザールを選ぶ。とてもおこがましいのだが、モネがサン・ラザールを描いた気分はとてもよくわかるような気がした。

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