2022-07-18

東京発、徳島経由、和歌山行きフェリーの旅

東京発、徳島経由、 和歌山行きフェリーの旅 2022/7/2-3

 現在、東京から大阪まで船で移動する手段はない。
 それでも何とか関西方面に移動できないと考えると、東京から徳島へオーシャン東九フェリーで向かい、徳島から和歌山へ南海フェリーで渡るのが最短ルートとなる。
 ただし、移動時間は24時間。高速バスなんか目じゃないスローな旅に出かける。

オーシャン東九フェリー

東京港フェリーターミナル (上)ずらりと並んだ冷凍食品自販機
(右下)調味料やカトラリー類も充実
(右下)チャーシューまんとミートスパ カプセルホテルのような二等船室
東京・東京港フェリーターミナル

 おそらく、知る人ぞ知るといったところだと思うが、東京ビッグサイトの1キロほど南、有明の地の果て、厳密にいえば有明と青海の間の人工島に東京港フェリーターミナルがある。
 東京の客船ターミナルというと、伊豆諸島や小笠原諸島に向かう船が出航する竹芝の客船ターミナルを思い出す方もいるかもしれないが、あちらとは違い、こちらはカーフェリーのターミナルとなっている。
 20世紀の末に現在のフェリーターミナルが竣工し、当時は那智勝浦経由高知行き、苫小牧行き、徳島経由北九州行きの3航路が就航していたが、徐々に2000年代に2航路が廃止され、現在残っているのは、徳島経由北九州行きのオーシャン東九フェリーの1航路のみである。
 徳島・北九州航路は、基本的には日曜日以外毎日出港していて、東京を夜出発し、翌昼過ぎに徳島、さらに次の日の早朝に新門司港に着くスケジュールとなっている。
 カーフェーリーなので、乗客のほとんどは自動車と共に乗船する。なので、徒歩乗船の待合室は閑散としていて、乗船開始の時点で1桁しかいなかった。
 ただ、フェリーの待合室から自動車の待機列を見てみると、数十台を超える数を確認できたので、それなりの乗客は乗ってきそうである。

乗船

東京・東京港フェリーターミナル

 いよいよ乗船の時間となった。乗船券を見せ、長い桟橋を渡り、フェリーびさんに乗り込む。オーシャン東九フェリーは4隻体制で運航されていて、白いボディの上に描かれた線の色がそれぞれ異なっている。フェリーびさんは、青色。ぱっとみ東海道新幹線と似たカラーリングなので、うっかり新大阪に行く人が載り間違えないか心配である。
 さて、まずは荷物を置くために、割り当てられた部屋に向かう。
 今回は一番安い二等としたのだが雑魚寝の大部屋ではなく、カプセルホテルのようなベッドが一人一台づつ割り当てられる。ベッドは二段ベッドになっていて、上段のベッドへは階段を登って入っていく構造。
 基本は、8人で一部屋のようだが、一部16人部屋になっており、運が良いのか悪いのか、16人部屋が割り当てられた。とは言え、乗客はあまり多くないようで、店員の4分の1ほどしか埋まっていいないようだ。私の部屋も乗客は4人のみ。互い違いに全員が上段ベッドに割り当てられているようである。で、俺のベッドはどれかと探してみると、部屋の奥の角地の上段。悪くない、というか船酔い対策的には船の中心の越したことはないので、一等地である。うん、早々にオーシャン東九フェリー、好きになってしまった。恋の予感。
 ベッドに寝てみると、中はまさにカプセルホテル。足元の上には荷物置きがあり、枕元には電源コンセントがある。実に快適、素晴らしい。全フェリー、2等はこの形式にしてほしいと本気で思う。

 寝床を確認したので、さっそく船内探検に出かける。
 船の先頭側には、テレビとリクライニングシートのあるちょっとしたラウンジがあった、その横にはお風呂もある。お風呂は大きな湯船もあるのだが、それとは別にシャワールームもある。フェリーの風呂は、揺れが激しいと波打つので、船酔いがちな私は風呂で船酔いをすることがある。シャワールームがあるのはありがたい。
 階段を上がって、屋上デッキに出てみる。あまり大きくはないが、ヘリポートを兼ねたフラットで開放的な展望デッキである。
 最後に、乗船口でもあるオーシャンデッキに戻る。オーシャン東九フェリーは、船内にレストランはなく、売店もかなり小規模。その代わり、冷凍食品の自販機が異常に充実しており、食事には全く困らない。
 近くにコインロッカーもあるので、貴重品はここに置いておけば安心である。

出航

展望デッキで東京ゲートブリッジを見上げる
東京・東京湾

 船が出航すると、乗客が続々と展望デッキに上がっていった。お目当てはフェリーターミナルの目の前にある東京ゲートブリッジ。
 東京ゲートブリッジは、恐竜、あるいはダックスフントが向き合ったような特異な形状の巨大なトラス橋。海上80メートルの上空に鉄骨の塊が浮いている様は壮観で、その下をフェリーがくぐることになる。
 羽田空港が近くにあるため、頻繁に飛行機が船の上を横切り、橋と飛行機の共演を見ることができる。
 橋の姿を堪能すると、デッキの乗客は一斉に展望デッキを撤退し、急に静かになった。私はしばらく一人で上空を行き交う飛行機を眺めていたが、風が強くなってきたので諦めてオーシャンデッキに戻ることにした。

 オーシャンデッキに戻ったら、ディナータイムとすることにした。
 ディナーは当然、自動販売機の冷凍食品となるのだが、パスタ、うどん、チャーハン、ガパオライスに、点心、揚げ物と目移りする魅惑のラインナップ。
 散々迷ったが、ここは奇をてらわず、食べたいものを食べようと、ミートスパとチャーシューまんというイタリアと中国の夢のコラボレーションを選択した。
 自販機で買った冷凍食品は、背後にある電子レンジで温める手順となっている。電子レンジは6台ほど並んでいて、AからDまでの札が付けられている。メニューにも同様にAからDまで別れていて、指定された電子レンジにいれると、ワンタッチで最適な秒数を温めるようにセットされている。
 とってもありがたいシステムなのだが、一つ大きな弱点がある。私が買ったミートスパは"D"なのだが、"D"の電子レンジは1台しかない。つまり、他の電子レンジが空いていたとしても、"D"の電子レンジが使用中だと温めることができないというトラップにハマる。
 この時、なぜかみんな"D"のメニューを購入したらしく、みんな"D"の前に並んでいる。"A"も"B"も"C"も空いているのだが、"D"だけ3人並んでいる。
 冷凍なので、どのメニューも解凍にはたっぷり3分以上の時間を要する。10分以上、レンジの前に並び、ミートスパが自然解凍したのではないかと言う頃合いで私の番が回ってきた。
 いやさ、普通に、あたため指定時間を書いておいてくれれば、みんなレンジを操作するんじゃないのか? そのくらいは俺だってできるぜ...。
 さらに待つこと3分でミートスパが出来上がった。レンジコーナーの横にはカトラリーコーナーがあり、箸、スプーン、フォークや皿類が並んでいる。さらに調味料も豊富で、ソース、醤油はもちろん、カラシや胡椒などもある。
 席まで熱々のパスタを運び、夕食にありつく。うん、予想以上においしい。特にチャーシューまんはなかなか絶品。ぜひ、コンビニで常備しておいてほしい出来である。

太平洋沿岸

 この時、私は大きな問題を抱えていた。この日は全国的に大きなニュースとなったKDDIの大規模障害があった日で、UQモバイルユーザーの私も障害に巻き込まれていた。
 本来、本州近海のフェリーは、陸からそう遠くを航海しないため、携帯の電波はまあまあ入ってくる。だが、この日は当然、完全に通信を遮断された状態となっていた。
 ということは、つまり、私は暇つぶしの手段を奪われたということになる。しばらくは、たまたまダウンロードしてあったオフラインでも動くゲームをやっていたのだが、まあ、すぐに飽きる。
 風呂でも入るかと風呂場にむかったものの全身模様付きのおじさまが入浴していらっしゃったので、すごすごと隣のシャワールームへ撤退。
 風呂上がりのジュースを飲んで、ぼーっとしていたが、いよいよやることがなくなってきた。血迷って仕事でもしようかと思ってしまったが、船酔いが怖いので、早々に寝ることにした。
 寝る子は育つということで、おやすみなさい....


フェリーの湯舟は波に揺られて波が立つので、船酔いする
(上)なんだか天気が悪そう
(左下)朝ごはんの冷凍助六寿司
(右下)冷凍自販機の反対側にずらりと並ぶ電子レンジ
紀伊半島沖

 翌朝、船が紀伊半島をくるりと回り始めたころ目が覚める。
 着替えて、シャワーを浴びて外のデッキに出てみると雨が降っていて、風もかなり吹いていた。通りで揺れると思った...。
 さて、お腹が空いているので、冷凍食品の2回戦を開戦することにする。
 昨日の晩から気になっていたメニューがあり、心は決まっていた。
 助六ずしである。
 もう一度言う、自販機の中に凍った助六が入っているのである。
 太巻きも稲荷も凍っているので、電子レンジで温めて食べろというのだ。米飯界への冒涜との誹りを免れない悪事ではあるが、郷に行けば郷に従えである。
 自販機で助六を買うと、当然カチカチの太巻きとおいなりさんが出てきた。食品サンプルと見紛うが、冷たいので間違いなく冷凍されている。
 例によって指定の自販機"C"で回答すること3分。禁断の解凍助六が出来上がった。
 食べてみると味はもちろん問題ない。普通に美味しい。だが、レンジの加熱ムラが強烈で、熱々の太巻きとシャリシャリのシャーベットおいなりが出来上がっていた。
 オーシャンデッキの電子レンジは回転テーブルの無い業務用の電子レンジ。もう少し慎重にレンジの中央に助六を配置すべきだったと公開したが、後の祭りである。

徳島港上陸

徳島港到着 (左上)バスで徳島駅へ
(右上)徳島駅から眉山を望む
(左下)滝の焼餅
(右下)バスで南海フェリーターミナルへ
徳島・徳島港

 正午を周り、船は徳島に近づいてきた。雨も上がり、すっかり晴天である。
 工場だか倉庫だかが立ち並ぶ港の中に船は侵入し、東京と比べるとずいぶん小さなフェリーターミナルに船が横付けされた。
 車や貨物が優先なのか着岸してからかなりの時間船内で待たされた後、ようやく下船の許可が下りる。
 北九州まで引き続きこの船に乗る乗客もいるはずだが、ほとんどの乗客が徳島で降りるように見えた。まあ、徳島から乗ってくる乗客もいるはずなので、北九州までの乗客数が増えるのか減るのかはよくわからない。

徳島・徳島駅

 さて、徳島では沖洲という場所の海ギリギリのところに着岸した。一方、和歌山行きのフェリーのターミナルは、もう2キロほど陸側にある。
 歩いてフェリー乗り場を移動しようかとも思っていたのだが、和歌山行きの出発まで時間があるのと、暑くて歩く気がしないので、一旦徳島駅行きの直行バスに乗って徳島に向かい、休憩してからまたバスで南海フェリー乗り場に向かうことにした。

 小腹が空いたとうろうろしている時に見つけたのが、焼き持ち。徳島の名物で和田の屋さんの「滝の焼餅」というらしい。
 味はプレーンと抹茶と胡麻の三種類。値段は、プレーンはなんと95円! 抹茶と胡麻も105円という昭和価格。1枚から購入できて、その場で焼いてくれる。
 手にとって見るとかなり小さくペラペラ。だが、それゆえちょっと焼くだけで香ばしい香りが漂ってくる。おいしい。
 いやね...。正直言えば、写真のイメージより格段に小さいのよ。美味しかったし値段も安いので全く文句はないんだけど、そうだったら10枚ぐらい注文してやったのに...と、思いながらあっというまに食べ終わった。
 かなり気に入ったので、今度から徳島に来るときは忘れず「滝の焼餅」を購入することにする。うん、10枚購入する。

南海フェリー

南海フェリーで和歌山へ 南海フェリー かつらぎ船内
(右下)オーシャン東九フェリーのターミナルを眺めながら出港
徳島・徳島駅

 徳島駅前から南海のフェリー乗り場まではバスで30分弱。南海フェリーターミナル行きのバスだが、通常の生活の足となっている路線バスらしく、乗客がまあまあ多い。
 市街地を抜け、港に入り、終点の南海フェリーターミナルに到着する。

 和歌山と徳島を結ぶ南海フェリーは1日8便。約3時間おきに24時間運行している。生活の足となっているようで、観光客と言うよりは地元のお客さんのほうが多そうである。
 南海フェリーは、南海フェリーの運賃だけで、南海電車全線の片道乗車券がついてくる「好きっぷ」(すきっぷ)というのを発売している。しかも、VISAタッチで利用すると、自動的に「好きっぷ」料金が適用される。(南海電車側では、主要駅のみVISAタッチに対応しているので注意)。
 これは、便利!。スマホをタッチするだけで乗船券を買う必要もなく船に乗れてしまう。

徳島・徳島港

 出港時間のわずか5分ほど前に乗船が開始された。そして、あっというまに船は出発。
 オーシャン東九フェリーに比べたらかなり小型の船だが、乗客はほぼ満員。絨毯の敷かれた雑魚寝スペースに団体客もいて、かなり活気がある。
 だが、活気はあっても自販機に冷凍食品が並んでいるわけではないので、小腹が減ってもご飯にはありつけない。仕方がないので、自販機に売っていたハッピーターンを食べて空腹を凌ぐことにする。滝の焼餅、もっとたくさん買えばよかった...。
 徳島から和歌山まではちょうど2時間、昨日と違ってネットもつながるので、スマホを見ているうちにいつの間にか和歌山港に入港していた。

和歌山到着

(上)まもなく和歌山港到着 和歌山港駅とそこへつながる渡り廊下が見える
(左下)徳島では室内のデッキから出入りするが、和歌山では室外デッキから出入りする
(右下)どこまでも続く長い渡り廊下 (左上)VISAタッチ対応の自動改札機 かっこいい
(右上)パタパタここに健在せり
和歌山市駅行きの連絡列車
和歌山・和歌山港

 和歌山港に着岸間近となると、乗客が一斉屋外の座席に移動をし始めた。最初なんのことかわからなかったのだが、南海フェリーは徳島側と和歌山側で出入り口が異なっていって、和歌山側は一度外の座席を通ってから下船するらしい。
 慌てて、荷物を持って外に出ると、和歌山港とその向こうに南海の和歌山港駅のホームが見えた。
8年前、スルッとKANSAI 3day 1192.5km 完全制覇のときに和歌山港駅に訪れた時、港の方にフェリーが止まっていたのが見えたが、今思うとあれはまさに今日乗っているフェリー「かつらぎ」の姿だった。まあ、あのときは、4分しかホームにいなかったので、特に思い入れがあるわけではないが...
 フェリーターミナルから和歌山港駅までは、動く歩道が設置された長い長い通路でつながっている。
 昔は全国各地にあった鉄道と船の連絡だが、今、その名残をとどめているのは、ここ和歌山港だけだといってよいだろう。

和歌山・和歌山港駅

 長い廊下を歩き終わり、和歌山港駅の改札に到着。真新しいVISAタッチ専用の改札を通れば、「好きっぷ」適用。どこまで言っても南海運賃はタダである。といっても、疲れ果てたので、難波に向かって名古屋に帰るのみである。
 ホームに登ると、次発の案内の掲示板が未だに「パタパタ」ことソラリー式の掲示板だった。これこそ、今となってはかなり貴重な存在。
 今更ソラリーを復活しろとは言わないが、せめて液晶モニターでCGでパタパタで再現してくれんないかと日々思っている。やはり、自分の乗る列車の発車時刻と行き先はパタパタで確認するのが旅情ってものだと思う。

 そんなわけで、24時間かけてなんとか東京から関西・和歌山への海上移動が完了した。
 ただでさえ時間がかかるのに、東京の乗り場は東京臨海の過疎地、徳島では2つのフェリーターミナルの移動手段がなく、さらには和歌山に着いても難波までもう1時間必要。もちろん料金だって安くはない。
 移動手段としてのメリットは得にはないが、「船の旅」ってのはいいものですよということは、伝えておきたい。(船酔いするけどね...)

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