2023-04-21

ヨーロッパ横断 駅舎をめぐる旅 (#6 ブリュッセル)

 ヨーロッパとアジアを結ぶ国際列車が行きかっていた戦前の鉄道黄金期に思いを馳せながら、ヨーロッパの駅舎を巡る旅。
 かつてロンドンと大陸を結んでいた港町オーステンデに立ち寄り、ベルギーの首都ブリュッセルに戻ってきた。

Central/Centraal

なんだか暗くて狭い地下駅 外に出ると立派なビルが建っている
入り口の上にフランス語とオランダ語で駅名が書かれている
フランス語: BRUXELLES CENTRAL オランダ語: BRUSSEL CENTRAAL ブリュッセルのメトロの切符は片道切符にもチップが入っている
改札はあるのだが、使っても使わなくてもよいポジションっぽい
ブリュッセル・Central/Centraal 駅

 オーステンデから1時間半、定刻通り、ブリュッセルの中心、ブリュッセル Central/Centraal (中央)駅に到着した。
 ブリュッセルの中央駅らしく、たくさんの乗客がホームで乗り降りしているのだが、ホームがとても狭い。ホームに続く階段も狭いし、なにより駅全体が薄暗く、ホームも3つの島式ホームと6本の線路のみで、「中央駅」という感じがあまりしない。あえて言えば新橋や新日本橋の横須賀/総武線快速先の地下ホームの雰囲気である。

 この駅ができたのは1952年のことである。それ以前、1939年の時刻表を見てみると、ブリュッセルには北と南の二つ駅がありどちらも頭端式のホームとなっていった。ブリュッセルを通過する列車は、町の外側にある環状線を通るしかなかったのだが、この線路は単線ですぐに容量の限界に達した。
 この問題を解消するために市内に線路を敷き、南北の駅を接続しようとする計画が持ち上がった。この経緯は、南北と東西の違いこそあれ、ワルシャワやベルリンと同じである。違いはその時期だ。元々、南北接続が持ち上がったのは19世紀半ばである。その後、やっと具体化したのが20世紀前半、工事が始まるものの第一次世界大戦で中断し、再開するまでに20年を要した。第二次大戦中は工事の中断こそなかったもののそのペースは落ち、最終的に南北接続が完成したのは、1952年のことだった。
 19世紀に造られていれば、国家の威信をかけた荘厳な駅舎が建っていただろうし、建築技術が発達した現在ならばベルリン中央駅のような開放的な駅舎ができたかもしれない。作られた時期が悪かったのかなんだか暗く、狭い駅舎となってしまった。

 狭い階段を上りコンコースに出るが、やはりあまり広いとも豪華とも言えない空間となっている。
 まあ外から見ると大きな駅ビルがあり、それなりに立派ではあるのだが、少し残念な中央駅である。
 というか、雨降ってるしとても寒い...

ブリュッセル・Central/Centraal 駅

 ブリュッセルの駅からホテルまでは地下鉄で移動したのだが、いままでのポーランド、ドイツとは切符が一味ちがっていた。
 切符を買って車内で切符に時刻を印字してアクティベートする仕組みは同じなのだが、車内の機械に切符の差込口がない。
 はて、どうするんだろうと思っていたら、親切なお姉さんが、「ここにタッチをするんだ」と教えてくれた。なんと切符はにチップが入っているらしい。進んでいるぞ、ベルギー。
 また駅によってはしっかり改札があり、ドイツやポーランドと比べると「ちゃっかりお金を取るぞ」感がある。
 ただ、駅によって改札があったり、なかったりするし、改札素通りしてホームに入れたりするので、位置づけがよくわからない。車内でアクティベートする代わりに改札でもアクティベートできるということなのだろうか??

グラン・プラス

グラン・プラスのシンボル・市庁舎 ひときわ目立つ ブラバント公爵の家
大きなファサードの裏側は7つの建物に分かれているらしい ご存じ小便小僧
ブリュッセル・グラン・プラス

 翌日、雪である。
 といってもホテルでじっとしているわけにはいかないのでブリュッセルの街の見物にでかけた。
 ブリュッセルの旧市街の中心にグラン・プラスという広場がある。15世紀に建てられた市庁舎を初めとして歴史的な建造物が立ち並んでいる。
 ゴディバの本店もこの広場に面した建物の中にある。
 ビクトル・ユーゴーが世界一美しい広場と称したそうだが、その前に、「いやビクトル・ユーゴーって、誰だっけ?」で、思考停止してしまった。

 ブリュッセルというと小便小僧像で有名だが、小便小僧もグランプラスの近くの街角に建てられている。
 思ったよりも小さくてがっかりすると名高いが、まあ確かに小さい。ただ、それなりに仰々しく飾られているので名物感は出ている。
 現地ではジュリアンくんと呼ばれ、季節ごとに衣装を着せられることがあるらしい。そう聞くと、我らが名鉄名古屋駅前のナナちゃんと同じ境遇かと親近感が湧いたのだが、ナナちゃんと違い、この像は17世紀からここに建てれているのだそうだ。(現在の像の前にも小便小僧像が立っていて、その歴史はさらに100年ほど遡るそうな)

アーケードがが美しいギャルリー・サンテュベール 小便少女
これがジェンダーフリーというものなのだろうか? 水は流れていないが、道端におしっこ犬の銅像もあった
ブリュッセル・グラン・プラス

 一方、グランクラスを挟んで小便小僧の反対側に、世界最古のアーケードと言われるギャルリー・サンテュベールがある。アーケードと言ってもガラス張りの優雅な曲線の屋根で、大須商店街のアーケードとはわけが違う。
 そのギャルリー・サンテュベールから数本離れた路地に、小便小僧ならぬ小便少女の像もある。その姿はもう絶対街中にあったらダメなやつで、ブリュッセル市民大丈夫かよと思わずに入られない。
 ちなみに、グランプラスの北側の路地には小便をする犬の像もある。いや、ブリュッセル市民の性癖が歪んでいないのか、ちと心配にはなる...。

Midi/Zuid と Nord/Noord

1939年ベルギー国鉄の時刻表の路線図
中央やや左上のブリュッセルは南北に二つの駅があり繋がっていなかった ブリュッセル南駅の駅ビル 高架ホームの下が巨大なコンコースとなっている
人が多いこともあり、なんとなく日本の駅っぽい (左上) ロンドン行きのユーロスターは専用の制限区域を通って乗車する
(右上) Midi がフランス語で、Zuid がオランダ語 駅名標も二種類ある
(左下) ペダルをこいで発電する謎の機械 使っている人が割といたので多分使える
(右下) ベルギーの車両の落書きはかなりひどい 全滅に近い状況
ブリュッセル・Midi/Zuid 駅

 前述の南北接続線建設時に、ブリュッセル Midi/Zuid (南)駅と Nord/Noord (北)駅はスクラップ&ビルドされており、往時の駅舎は残っていない。しかし、その名前を継いだ駅に敬意を表して両駅も見学しておく。
 まずは、 Midi/Zuid (南) 駅へ向かう。Midi/Zuid (南) 駅は、国際列車であるユーロスターやタリスが発着するブリュセルで一番華やかな駅である。
 日本のような通過型の駅で、高架のホームの下がコンコースになっている。ホームは11面22線という堂々ターミナル駅である。
 西側の1面はロンドンへ向かうユーロスター専用となっている。ユーロスターでは乗車時に出発国の出国と到着駅の入国を行うイミグレーションがあるため、独立した出国検査場の空間が用意されている。
 駅の隣には駅ビルもあり、たくさんの商業施設がならんでいる。
 ところで駅のコンコースに、なにやらペダルがある謎の物体があったのだが、ペダルを漕いだ電力でスマホを充電する機械で、何人かがスマホを眺めながらペダルを漕いでいた。はたして、使用量と充電量は釣り合いがとれているのだろうか??
 なお、かつての Midi/Zuid 駅は現在の駅から南に300メートル、今では線路となっている場所にあったようである。

なぜか寂れている Nord/Noord 駅 駅舎の側面っぽいが、どうもここが正面玄関らしい
天井は高く立派だが、ちょっと小さめなホール (上) 裏口から出ると細い路地裏 (左下) オランダ語の駅名標 (右下) あまり利用客はいないが列車の本数は多い
ブリュッセル・Nord/Noord 駅

 続いて Nord/Noord (北) 駅へ向かう。 Midi/Zuid 駅から Nord/Noord 駅への移動は普通は地下鉄や近郊列車を利用する。しかしながら、Eurail Pass を持っている俺は無敵なので、長距離列車に乗車し北駅に向かう。日本で言えば東京から品川まで踊り子号で移動するようなものである。(多分、日本でもJapan Rail Pass で東京から上野や品川まで新幹線で移動している外国人観光客、いるんだろうなぁ。俺なら絶対やるもんなぁ。)
 華やかだったに比べ、一転、Nord/Noord (北) 駅はかなり地味である。この駅を発着するほぼ全ての列車が中央や南駅にも停車することもあり、6面12線の大きな駅でありながら、中央駅と比べても人通りが少ない。
 こちらもまた高架駅であるが、コンコースは狭く、東側を出ると駅舎もなくすぐに狭い道路に出る。日本で言うところの「駅裏」の雰囲気である。では反対側が「表」なのかというとそうでもなく、反対側には駅舎があるもののすぐ隣にビルが建っており、しかもそのビル(駅ビルなのか、関係ないのかよくわからない)が工事中のため、仮設駅のような雰囲気になっている。
 駅舎の南側の出口からはなんとなく駅舎を見ることができるのだが、側面を見ているのでなんだか心もとない。
 なお、かつて頭端式時代の Nord/Noord 駅はこの駅舎の300メートルほど南にあったようである。

Thalys

Thalys でパリへ移動する 車両も座席も赤色で統一されている
ブリュッセル・Midi/Zuid 駅

 ブリュッセルからは Thalys (タリス)に乗って、パリまで移動するため、出発駅 Midi/Zuid に戻ってきた。
 Thalys とは、パリとブリュッセル、さらにはオランダのアムステルダム、ドイツのケルンを結ぶ高速鉄道である。紆余曲折があり現在はユーロスターと同じ会社が経営している。
 Eurail Passで Thalys に乗るには追加料金が必要で、なおかつ事前にEurail Pass用に用意された座席を予約しておく必要がある。割と競争力が高いと聞いていたので、この区間は日本出発前の早い時期に予約していた。
 Thalys にも ユーロスター同様に専用のホームが用意されており、指定された通路を通ってホームに上がる。以前は厳格な荷物検査があったようだが、現在は特にチェックはしていないようである。
 フランスの高速鉄道TGVをベースとしとした車両は真っ赤に塗装されていて、「3倍速いんじゃね?」と思わずにはいられない雰囲気を醸し出している。
 内装も赤で統一されていて、実にかっこいい。
 例によって1等の座席を確保していたのだが、1等社もほぼ満席。30分に1本というダイヤでこの人気ぶりは、ベルギーとフランスを結ぶ主要輸送機関であることを見せつけられた。
 座席の配列は2列、1列で、広々としている上にリクライニングシート。実に豪華である。が、実はThalysにはもう一つ上のプレミアムという座席クラスがあり、それに乗ると食事サービスがつくのだとか。
 例によってなんの合図もなく静かに駅を出発するのだが、すぐに高速新線に入り、そこからはあっと言う間にパリに到着する。乗車時間、わずかに1時間20分である。伊達に赤いわけではないようです、大佐。

 ところで、ブリュッセル南駅にいる間に、なんだかんだ理由をつけて金を貸せというおっさんと兄ちゃんに絡まれた。小銭をくれといういわゆる乞食はどこの国にもいるのだが、この手の詐欺まがいに絡まれたのはブリュッセルだけだった。
 ヨーロッパはどの街も落書きだらけなのだが、ベルギーは特に酷く、車窓から見える後続物全てに落書きされているように見えた。また鉄道車両の落書きも他の国より明らかに酷く、国鉄車両は全ての落書きされているのではないかという有様だった。
 ヨーロッパの旅行ガイドブックを見るとパリの治安の悪さに言及するものが多い気がするが、俺の印象としては、ブリュッセルの治安が圧倒的に悪いのではないかと思えた。

パリに到着

パリ Nord 駅に到着
むちゃくちゃ人が多い Thalys 正面もかっこいいぞ
パリ・Nord 駅

 Thalys があまりに速かったので、ちょっと油断しているうちに気がついたら終点のパリ Nord (北)駅に到着していた。
 列車を降りて待ち受けていたのは、今回のヨーロッパの旅で初めて見る、人込みの多さである。さすがヨーロッパ有数の混雑駅である。
日も暮れてしまったので、駅舎の見学は明日に回して本日はホテルに向かうとする。

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