世の中に乗ってみたい乗り物がたくさんある。ホーバークラフト、飛行船、列車ごと船に乗せる鉄道連絡船、などなど。
そのうちの一つが水上飛行機である。水上飛行機とは、滑走路ではなく水上から離着水する飛行機のこと。要は、「紅の豚」でポルコたちが乗っているアレである。
水上飛行機は軍事用、防災用として活躍するほか、小規模な離島路線を中心に民間航路も世界中で多数運行されている。多数の離島を抱えているはずの日本でも戦前は運行されていたようだが、戦後絶滅してしまった。
で、どこなら乗れるのかと調べたのだが、世界最大の水上飛行機の運行会社(TMA - Trans Maldivian Airways)はモルディブにあるらしい。
モルディブはインド洋北部に浮かぶ島国である。島国と言っても日本とは違い、モルディブは26の環礁が領土となっている。環礁とは環状に形成されたサンゴ礁のことで、島は主にそれぞれの環礁の外縁にあたる部分にある。モルディブの主要産業は観光であり、小さな島一つが一つのリゾートホテルとして開発されてきた。
モルディブの空の玄関・ヴェラナ国際空港は、首都であるマレ島の隣の島にある。海外からの観光客は、そこから各リゾートの島へ移動しなくてはならない。空港のある南北マーレ環礁の島へはボートで、それ以外の環礁へは水上飛行機で、さらに離れた環礁へは一度国内線に乗り換えてからボートで移動する。
つまり、モルディブのヴェラナ国際空港から少し離れた環礁にあるホテルに泊まれば、必然的に水上飛行機に乗ることができるということである。
そこで、今回はモルディブ諸島の北方、ラヴィヤニ環礁にあるリゾートホテルに宿泊する旅に出た。
ヴェラナ空港
マレ・ヴェラナ空港
名古屋からシンガポール経由で一日かけてモルディブの首都・マレのヴェラナ空港に到着。
ここからいよいよ水上飛行機に乗り換えて...、と行きたいところだが、そうはいかない。というのも、水上飛行機は有視界飛行で行われるらしく、夜は飛ぶことができない。(滑走路で離着陸するわけではないからね)
夜間に到着した場合、ボートで行くリゾートであればそのままボートに乗り換えて出発できるのだが、水上飛行機の場合は空港の周辺で一泊して、次の日に島に向かうことになる。
ヴェラナ空港はフルレ島という島にあるのだが、この島には基本的に空港しかない。フルレ島と橋で二つの島が繋がっていて、一つがモルディブの古くからの首都であるマレ島、もう一つが人工の島フルマーレ島である。翌日水上飛行機で移動する乗客は、たいていどちらかの島のホテルに宿泊することになる。
今回はマレのホテルに宿泊するため、マレ島までフェリーで移動することにする。空港のターミナルを出たらすぐ目の前がフェリーターミナルになっていて、各リゾート島へ行くボートが次々と出発していく。その中の一つの桟橋がマレ行きのフェリー乗り場となっていて、24時間運航されている。
モルディブの通貨はルフィアなのだが米ドルも広く流通していて、大抵のものがルフィアと米ドルの二重価格になっている。フェリーの値段は1米ドル、窓口で米ドル札を渡すと乗船券をくれる。
フェリーは10分おきに出航すると聞いていたのだが、なんだかいつまでたっても船がやってこない。おまけにフェリーを待っている乗客は我々しかいない。もしかして朝までフェリーが来ないんじゃないのかと、不安になってきた頃に、ようやくフェリーがやってきた。
フェリーが桟橋に到着すると、どこからともなく人が集まってきて、深夜だというのに10人以上の乗客が乗り込んできた。どこかに時刻表があるのか、アナウンスがあるのか、はたまた船の姿を目撃して集まってきたのかそのあたりはよくわからず...。
フルレ島からマレの島は目と鼻の先、乗船時間は10分たらず。あっという間に到着する。
夜遅く、暗くてよく見えないのだが、それでも海がきれいなことは確認できた。明日が楽しみである。
マレ・マレ島
フェリーを降りて、徒歩数分でホテルに到着したので、この日は終了かと思いきや、ホテルの玄関に鍵がかけられていて、中に入ることができない。
予約サイトでは12時までチェックイン可能と書いてあったので油断していたのだが、完全に締め出されてしまったようである。
電話をかけても誰も出ず、途方に暮れかけていたのだが、ちょうどそのタイミングで宿泊していた乗客がフロントに降りてきた。しかも日本の方である。扉越しに事情を話し、従業員を呼び出してもらった。
しばらくしてやってきた(たたき起こされた)従業員に扉を開けてもらい、なんとかチェックインすることができた。あの時の宿泊客の方、本当にありがとうございました。
あとでわかったのだが、どうもこのあたりのホテルは、空港からの送迎がセットになっているらしく、フェリーで自力で到着する客はいないらしい。そんなわけで、我々は無断キャンセル扱いになり、締め出されたようである。ホテルに事前に連絡を取らなかったのが失敗だった。特に外国に宿泊するときは、ホテルとよく連絡を取るべしと学習した。
いよいよ水上飛行機


(下) 水上飛行機のカウンターと搭乗券

(下) 宿泊するル・メリディアンのラウンジ
ラウンジの窓の向こうに着水する水上飛行機が見える
マレ・ヴェラナ空港
翌朝、ホテルの人に送迎してもらい、ヴェラナ空港に戻ってきた。
改めて昨日のフェリー乗り場を見てみたのだが、やはり海はとてもきれいである。気温は30度前後ということらしいが、湿度がなくとても過ごしやすい。あらためて、滝のように汗が噴き出る日本の夏は地獄である。
さて、ここから水上飛行機に乗るのだが、チェックインの方法が少し変わっている。
ヴェラナ空港から各リゾートホテルまでの水上飛行機の手配は、基本的にリゾートホテルが行い、宿泊代と合わせて請求される。なので、チェックインも航空会社のカウンターではなく、ホテルのカウンターで行う。ヴェラナ空港のロビーには100を超えるのではないかという数のホテルのカウンターが並んでいて、その中から自分の宿泊するホテルのカウンターを探し手続きを行う。
なお、水上飛行機のダイヤは固定されておらず、その日の宿泊客を効率よく運ぶため、数か所のホテルに寄りながら臨機応変に、寄り合いタクシーのように運行されている。そのため、自分の飛行機が何時に出発するのかは前の日の夕方にならないとわからないらしい。
ホテルのカウンターで手続きを終えると、ようやく航空会社のカウンターに案内される。ヴェラナ空港からの水上飛行機の運行は、モルディブ航空とトランス・モルディブ航空の2社が担っていて、それぞれ青色と赤色がシンボルカラーである。
今回登場するのは、赤い機体のトランス・モルディブ航空である。カウンターで預入荷物を預け、搭乗券を受け取ると、マイクロバスに案内され、水上飛行機のターミナルへ向かう。水上飛行機のターミナルは滑走路を挟んでターミナルの反対側にあり、車で5分といった距離である。
ところで、この搭乗券、出発時刻は何も書かれておらず、結局いつ飛行機が出るのか全くわからない。
マレ・ヌービル水上飛行機ターミナル
水上飛行機ターミナルに到着すると、再びホテルのスタッフが現れ、それぞれのホテル別のラウンジに案内される。
国際線のターミナルが小ぶりでけっこうな年季物であったのに比べ(どうやら新ターミナルを建設しているようだが)、水上飛行機のターミナルは真新しく巨大である。四角い建物の中央が吹き抜けになっており、2階から4階までぎっしりラウンジが並んでいる。
私が案内されたのはマリオット系の二つのホテルの共同のラウンジなのだが、乗客は我々のみ。水上飛行機の出発時刻まで、食べ物やドリンクを自由にいただくことができる。
窓の向こうは、青いモルディブ航空の発着場となっていて、ひっきりなしに水上飛行機が離着水している。
水上飛行機に搭乗
いよいよ搭乗、そして離水開始
美しい環礁
途中で他の島を経由して再出発
マレ・ヴェラナ空港
しばらくして時間となると、ラウンジから搭乗待合室に案内され、さらにしばらく待たされた後、いよいよ飛行機に案内される。
ターミナルを出ると、目の前に網の目のように桟橋が伸びていて、そこに十機を超える水上飛行機が停泊している。
どれが俺の飛行機だろうとわくわくしながら係員の後ろをついていくと、その行く手に赤い水上飛行機が1機停泊していた。デ・ハビランド・カナダ製、DHC-6である。
小さな飛行機なので、桟橋からタラップを数段登るとすぐに機内。座席は1-2の3列シートで、座席数は15席。後ろ半分は荷物スペースになっていて、私のスーツケースも無造作に積み上げられている。
コックピットの扉は開けっ放しになっていたので、コックピットを除くことができるすぐ後ろ、最前列の席を確保した。
全員が席に着き、ハッチが閉じられると、雑な機内安全の説明があり、その後耳栓が配られた。その理由はすぐにわかって、エンジンが唸りだすと隣の席と会話できないほどの音量になるからだ。
やがて飛行機は水面を動き始めた。桟橋から離れると、滑走スペースまでゆっくりと移動する。波が穏やかなせいか、飛行機の動きは地上のタキシングとあまり変わらず、海の上を動いていることを忘れそうになる。
しばらくして、飛行機はターミナルに背を向けると、一気に加速をし始める。窓を見てみるとフロートが大きな水しぶきを上げている。その後、あっさりと離水に成功し、大空へと飛び立っていった。
座席に座っている分には通常の飛行機とあまり変わりない離水だったが、窓の向こうは水面。水面から直接大空へ、映画みたいであった。
ヴェラナ空港がある北マーレ環礁は南北約70キロ、東西約40キロの大きな環礁である。空港はその南端にあり、飛行機はその北隣のラヴィヤニ環礁に向かっている。
上空から見ると、環礁というのがよくわかる。環礁はサンゴ礁でできた大きな島の内側が水没し、その縁だけが地上に残された地形である。上空からはサンゴ礁とその縁がくっきり見え、縁の小高い部分が時々島になっているのが見える。
それぞれの島には多数のヴィラが建てられたリゾートホテルが建築されている。
サンゴ礁の海は青く、とてもきれいである。
水上飛行機は、途中1か所、他のホテルに寄って、私が滞在するとル・メリディアンホテルに到着した。約40分の空の旅であった。
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