南アルプスから駿河湾に注ぐ大井川に沿って走る大井川鐵道。
SL、特に最近では機関車トーマスを模した列車で人気の路線だが、SLの走る本線の終点・千頭からさらに大井川の上流に向かって伸びる井川線という路線がある。
もともとダム建設の為に敷設された井川線は、人里離れた辺境の地を小型の客車が登っていくという本格的な山岳路線であり、おいらが最も好きな鉄道路線の一つである。
そんな井川線の途中に長島ダムという国土交通省管轄の多目的ダムがあるのだが、月に1回休日に見学会を開催している。井川線に乗車し、ダム見学が出来るとなれば行くしかない。
まずは大井川本線に乗車
島田・金谷駅
大井川鐵道の起点・金谷駅。JR東海道線とののりかえ駅となっていて、東海道線のホームの隣にへばりつくようにして小さな駅舎とホームが建てられている。
大井川鐵道のSLにはバスツアーやマイカーで訪れる人も多く、それらの乗客は一駅先の新金谷駅から乗車するため、普段は閑散としている駅である。が、この日はJR東海と大井川鐵道の共同のウォーキング・イベントが開催されており、臨時列車や臨時SLも運行されるとあって、ハイキング客でごった返していた。
本日は大井川鐵道全線に乗車する予定なので、二日間乗り放題の”大井川周遊きっぷ”を購入する。お値段は4.400円で、全線往復運賃6260円よりもかなり安い。まあ、正規の運賃がお高いとも言えるんだけどね。
満員の乗客を乗せたウォーキング用の臨時列車を見送って、 9時1分発の定期列車に乗り込むべくホームで待つ。そこに現れたのはどこかで見たことのあるデザインの電車。黄色のボディーに紺色の帯、そう名古屋でもお馴染みの近鉄特急のデザインである。
大井川鐵道では近鉄の中古車両を購入し、近鉄塗装のまま運行している。他にも南海や東急の車両も走っているが、これらも昔の塗装のままでありさながら鉄道博物館のようである。
島田・金谷駅
近鉄柄の電車に乗り込み、大井川の上流に向かって金谷駅を出発する。
かつては近鉄の花形特急車両であったのであろう車両だが、今となってはシートにリクライニング機能がなく、微妙なすわり心地。だが、それも含めてレトロな車両の風情である。
高台にある金谷駅を出発すると、電車は反時計回りに旋回するかのように、大井川沿いに下りていき、そこからは終点の千頭までほぼ大井川に沿って走っていくことになる。
今年は桜の開花が遅く、特に静岡地方ではこの週の半ばに満開を向かえたばかりで、沿線の桜の木にまだ花が残っている。
車窓から見える大井川はものすごく川幅が広いのだが水量はほとんど無く、だだっ広い川原が広がっているだけに見える。おそらくは増水時のために数百メートル以上の川幅が確保されているのだと思うが、だとすると大井川流域の降水量というのは恐ろしい量なのであろう。
大井川本線の乗車時間は1時間あまり、時間が進むにつれ川幅は細くなり、山深くなっていく。
橋やトンネルを越えて、大井川の左岸、右岸を走り、終点・千頭駅にたどり着く。
いよいよ本命、井川線に乗り換え
川根本・千頭駅
大井川本線の終点・千頭駅で、お待ちかねの井川線にのりかえる。のりかえ時間は5分しかないので慌てて頭端式ホームの端まで向かい、中間改札を通って井川線のホームへ向かう。
そこで待っていたのは、小さな井川線の車両。井川線のかなりの部分がトンネルでそのトンネルの断面が小さいため、井川線の車両は冗談みたいに小さい。車両の扉は手動で、自分で扉を開けて、背を屈めて車両に乗り込む。
車内の高さは大人がギリギリ立てるぐらい、座席は通路を挟んで3人がけだが、3人座るとかなりムギュムギュになる。
出発時間になって運転手が乗り込んできたのだが、これがどういうわけか相当な巨体の持ち主。小さな車両の先頭に乗り込む姿はDr.スランプの則巻千兵衛氏を思い出さずにはいられない。
下流では散りかけていた桜も、この千頭あたりでは満開となっている。満開の桜の木の下を潜りながら井川線の車両は千頭駅を後にする。
井川線といえば、千頭駅から4駅先にある土本駅の話題に触れないわけにはいかない。この土本駅、かなり寂れてはいるものの全駅が秘境駅である井川線としては何の変哲もない駅である。だが、その駅名の由来にかなりの特徴がある。
この駅がなぜ”土本駅”というかというと、この駅の周りに”土本さん”が住んでいたからなのだそうだ。この駅が出来た頃、駅の近くの集落の名字が皆、土本さんでそれがそのまま駅名になったのだとか。こんな駅名、世界的にも例がないのではないだろうか??
駅の周りには何軒か民家が建っているのだが、今でも土本さんがお住まいになっているのだろうか??
井川線名・物アプト式区間へ
川根本・アプトいちしろ駅
千頭駅から40分。本日の目的地・川島ダムの一駅手前、アプトいちしろ駅に到着。
ここから川島ダムまでの一駅間が井川線のハイライト、アプト式の区間である。アプト式とは2本のレールの間にラックレールと呼ばれる歯型のレールを敷設し、車両の下の歯車と噛み合わせながら急勾配を上っていく鉄道方式のことである。鉄のレールの上に鉄の車輪を載せているだけの鉄道は元来傾斜に弱く、車なら難なく登れる5%程度の勾配も、特殊なモーターを積むなど相当無理をしないと上ることができず、それをもってしても8%程度の勾配が限界。しかしながら、アプト式ならば10%を超える勾配も上ることができる。かつては信越本線の碓氷峠でも使用されていたが、現在日本ではここだけで見られる特殊な鉄道となっている。
川島ダムの建設によって井川線の線路が水没することとなり、1990年にその代替路線としてアプト式の区間が開通した。
通常ならばトンネルなどを掘って迂回しながら登らなくてはならない高低差のある場所だが、建設費などの兼ね合いでアプト式鉄道で一気に高度を上げる作戦に出たようである。
アプトいちしろ駅に到着すると、最後尾にアプト式専用の機関車が連結され、後ろから列車を押し上げてくれる。井川線の列車は小型なのだがこの専用機関車だけは通常サイズの電気機関車で、相対的にかなりの巨体に見える。
井川線のアプト式区間の最大斜度は90パーミル(=9%)。数字で言うとたいしたことが無いように聞こえるかもしれないが、実際目で見てみると「鉄道じゃ無理だろ」と思えるようなかなりの急坂。しかしながら、ラックレールの本領発揮か、むしろ他の区間よりも高速じゃないかという勢いで楽々とで登っていってしまう。
出発してしばらくすると右手に長島ダムが見える。最初はダムの底と同じぐらいの高さなのだが、あっという間にダムよりも高い場所に上っていく。アプト式の区間の乗車時間は8分間、この間に89メートルも標高を上げ、長島ダム駅に到着する。
ここで、アプト式区間は終了。専用の機関車は切り離され、今度は上り列車の先頭に連結されてアプトいちしろ駅に戻っていく。
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