2023-04-19

ヨーロッパ横断 駅舎をめぐる旅 (#5 リエージュ/オーステンデ)

 ヨーロッパとアジアを結ぶ国際列車が行きかっていた戦前の鉄道黄金期に思いを馳せながら、ヨーロッパの駅舎を巡る旅。
 本日はベルギーはドイツを離れてベルギーに入る。
 まずはリエージュに立ち寄ってから、ドーバー海峡を望む港町オーステンデに向かう。

ケルン駅

ケルン駅 ケルン大聖堂に面していない方の入り口 食の奥深さを知ることになるおにぎり
ケルン・Hauptbahnhof 駅

 本日の目的地はドーバー海峡に面したベルギーの港町・オーステンデ。
 飛行機ができる前の時代、ドイツやベルギー、あるいはそれより東の国々からイギリスに渡るときは、人々はオーステンデから船に乗り換えてイギリスのドーバーに渡った。
 近年でも英仏海峡トンネルができるまではフェリーを利用してイギリスに渡る人も少なくはなかったのだが、トンネル開通後はパリやブリュッセルとロンドンを結ぶ高速鉄道であるユーロスターに需要を奪われ、オーステンデのフェリー航路は1997年に廃止となった。(その後、一時復活したこともあったのだが、結局現在は廃止されている)
 ちなみにヨーロッパとイギリスの航路という観点では、戦前は他に主要ルートが二つあった。フランスとイギリスを結ぶカレー - ドーバー航路。オランダとイギリスを結ぶフク・ファン・ホラント - ハリッチ航路である。オーステンデ以外の残りの二つの航路は、実は現在でもカーフェリーとして運行されている。

 早朝、ケルン Hauptbahnhof 駅へ向かう。相変わらず、毎日天気が悪い。
 ネットの情報でケルンの駅には有名なソーセージスタンドがあるらしいことを見つけ。朝ごはんはソーセージにしようと意気揚々と構内を探したのだが、それらしき店が見つからない。よく見てみると工事中の店が1件あり、それがそのソーセージ屋さんらしい。
 仕方がないので代わりの朝食を見つけようとコンビニ的な店に入ったのだが、ソーセージを食べられなかった失意のあまり、大変な判断ミスを犯してしまう。
 店の中で日本のコンビニで見慣れたパリパリ海苔がフィルムに包まれたおにぎりを発見したのだ。日本を離れて1週間、そろそろ米が恋しくなっていたこともあり、うっかり手を伸ばしてしまった。味は、「チキン ポン酢スタイル」と「チキン 枝豆」の2種類。正常な判断力があればこれを見ておにぎりをあきらめると思うのだが、うっかり魔が差し、「チキン ポン酢スタイル」を手に取ってしまった。
 不味かった......。
 おにぎりがここまで不味くなるとは、想像力が欠如していた。実は問題は「チキン ポン酢スタイル」ではなかった。ポン酢味の鶏肉なのでまあまあ食えるし、ごはんともギリギリあった。まずいのは米である。米は混ぜご飯形式で、ポン酢味のチキンと混ぜられていた。その過程なのか、炊き方なのか、ご飯がベッチャベッチャになっていて、食えたものではなかった。う~ん、ヨーロッパの日本食恐ろしいクオリティである。

ベルギーへ出発

ICE 316号でベルギーへ 1939年のベルギー国鉄時刻表巻頭の地図
パリ - ケルン間は現在はブリュッセルを通る青色のルートだが、
かつてはリエージュからパリに向かった ロンドン、パリとワルシャワを結んでいた豪華列車 Nord Express の時刻表
リエージュ(Luik)で、ロンドンとパリの列車が併結される
ケルン・Hauptbahnhof 駅

 ケルンからオーステンデは、リエージュで一度乗り換えて 約4時間の旅である。
 まずケルンから乗車する列車はDB(ドイツ国鉄)の ICE 316号。始発駅はフランクフルトで、ケルン、アーヘン、リエージュを通って、終点・ブリュッセルに向かう。
 ドイツとベルギー間の国際列車だが、DBの(ドイツ国鉄)の車両で運行されるようだ。ICE3という新幹線と同じ動力分散方式の高速列車らしい。
 やはり1等車にはアテンダントが乗車していたので、先程の悲劇的なおにぎりを洗い流すため、コーヒーを注文した。
 ケルンからアーヘンまでは森、畑、町と変化に飛んだ車窓を見ることができたのだが、アーヘンを超えたあたりから高速新線に入り、ほぼ掘割の中を走行するため、芝が植えられた緑の土手を延々と眺めることになる。
 時速がどのくらい出ているのかはわからないが、やはり静かで揺れもほとんどない。日本の新幹線がうるさくて揺れるのは動力分散方式のせいだと思っていたが、どうもそうではないらしい。技術力の差なのだろうか??

 ケルンから乗った列車はブリュッセル止まりなので、どこかで一度オーステンデ行きの列車に乗り換えないといけない。時間的にはブリュッセルで乗り換えた方が速いのだが、あえて手前のリエージュで乗り換えることにした。
 なぜリエージュでの乗り換えを選んだのかというと、この駅がかつて交通の要所であったからだ。
 現在ドイツ方面からパリに向かう列車はブリュッセルを経由してパリに向かう。しかしながら、戦前はパリに向かう際、この駅でオーステンデ方面と別れNamenなどを通って、より直線的にパリに向かっていた。
 かつて、パリ、オーステンデからワルシャワ、ロシア方面を結んだワゴン・リ社の豪華列車、Nord Express (北急行)もリエージュでパリからきた列車とオーステンデからきた列車を併結していた。
 なお、Namen経由のルートは現在でもローカル線として運行されていて、この線を通ってのんびりパリに向かうこともできる。

アーヘンから先の高速新線はずっとこんな景色が続く

リエージュ

カラフルなトレインシェードに覆われたリエージュ Guillemins 駅 外からみてもカラフル ベルギー国鉄の列車に乗り換えて、オーステンデへ どうでもいいがベルギー国鉄のロゴは戦前からほとんど変わっていない
左は1939年のベルギー国鉄の時刻表の表紙
リエージュ・Guillemins 駅

 ケルンから1時間ほどでリエージュに到着。ポーランドから数えて3つ目の国、ベルギーに入った。
 リエージュの駅は正確にはリエージュ Guillemins 駅という。リエージュの主要駅として、19世紀からある古い駅ではあるのだが、高速新線建設の際全面的に再開発がされ、近代的な駅となっている。
 現在の駅舎はスペインの建築家サンティアゴ・カラトラバの設計で2009年に供用されたものである。5面のホームを覆う優美な曲線のトレインシェードがとても美しい印象的な駅となっている。
 この駅舎ができるまでは、1958年に建設された駅舎があったのだが、現在はその面影は見当たらない。

リエージュ・Guillemins 駅

 リエージュから先は、NMBS/SNCB(ベルギー国鉄)の車両でオーステンデに向かう。
 ベルギー国鉄の特急は、座席の指定が全くできないのが特徴。1等も2等も自由席である。長距離列車は2階建てになっていて、一部の車両の2階が1等車となっていた。
 1等、2等、見比べてみたのだがどちらも2列-2列の配列で、さしたる違いはないようい見えた。また、ドイツのICEとちがって、キャビンアテンダントも食堂車もない。
 Eurail Passの1等の切符を持っている俺は、もちろん1等車に座ったのだが、乗客が圧倒的に少なく、車両が静かというのが1等車の唯一の利点のようである。なお2等のきっぷで1等に座ると、ものすごい剣幕で車掌に追い返されるらしい。(なんか見た)
 なお、ベルギー国鉄の略称をNMBSとSNCBと二つ併記したのは、ベルギーではオランダ語とフランス語が使われ、両方の言語が併記されるからである。NMBSがオランダ語で、SNCBがフランス語の略称となっている。
 駅名も原則、オランダ語とフランス語が併記されるのだが、地域によっては片方だけだったり、言語の順序がかわたりするらしい。

オーステンデ駅

降りたホームの目の前は、柵を挟んで岸壁
今は連絡船はなく、貨物船が停泊している がらんとした駅構内 鳩ではなくカモメがウロウロしている
1913年完成の駅舎
オーステンデ・オーステンデ駅

 リエージュから2時間半、オーステンデに到着。リエージュではさほど乗客は乗っていなかったのだが、ブリュッセル前後で乗客が多少増え、また徐々に減ってきてオーステンデに到着した。
 列車からホームに降りた人数は10名ちょい程度、8両ほど連結していることを考えると少々寂しい終着駅ではある。
 一番東側のホームに到着したのだが、ホームのすぐ向こうが岸壁となっていた。かつては鉄道を降りたらすぐにドーバー海峡を渡る連絡船に乗ることができるようになっていたのだと思われる。
 1938年開業の歴史あるオーステンデ駅だが、2012年にリノベーションされたばかりでホームにはカラフルなトレインシェードがかけられている。
 すべてのレールが駅舎で行き止まりとなる頭端式のホームとなっているので、ヨーロッパ大陸の端までやってきたという気分になる。

 一方、ホームの先にある駅舎は1913年完成の重厚な建物が残されている。
 ただ、今は大きな駅舎に見合う乗客はいないらしく、小さな売店と片隅に遠慮がちに切符売り場があるだけでなんだか広い空間を持て余しているように見えた。

オーステンデ駅前探索

駅前にはかつての漁船が飾られている 中は博物館になっているらしい 駅前の運河に架かる橋は跳ね上げ式
橋が元に戻る直前に撮影したので、ちょっとだけ浮いている 聖ピーター・ポール教会 駅前のカフェでランチ
オーステンデ・オーステンデ駅

 駅を出ると目の前が運河となっていて、跳ね上げ式の橋を渡たるとすぐに街中に入っていく。
 かつてヨーロッパの玄関口であった頃の名残なのか、駅と街がとても近くにある。
 小さな街の中心にはやはり教会がある。1905年完成の聖ピーター・ポール教会である。よくはわからないがネオゴシック様式らしい。
 観光客も地元の住民の姿もあまり見かけないのだが、海が近いため、夏場は観光客で賑わうらしい。フランス国境近くまで海岸沿いを走るトラムも出ていて、いつか機会があればこれに乗って、ドーバー海峡を眺める旅にでてみたいものである。
 ちらっと街を散策した後、駅前のカフェで昼食を食べる。カフェの入り口にはランチメニューが掲げられていて、なんだか日本の喫茶店のようである。
 メニューの名前は忘れたが、煮込まれたお肉とコーヒーをいただき、オーステンデの駅に戻っていく。

ブリュッセルへ

オーステンデからブリュッセルへ
オーステンデ・オーステンデ駅

 オーステンデを観光したあとは、ブリュッセルに向かうことにする。行きの電車ではブリュッセルを通過したので、元来た路線を戻る形になる。
 到着したときと同じホームに停車している Eupen 行きの列車に乗ってブリュッセルに向かう。ブリュッセルまでは約1時間半である。
 オーステンデを出発してしばらくすると高速新線に入る。現在は休止となってしまったが、一時期パリからオーステンデまで、高速列車 Thalys が直通していたそうである。
 行きと同じく乗客はほとんどいなかったが、ブリュッセルに近づくにつれ少しずつ乗客が増えていった。
 ブリュッセル南の大ターミナル ブリュッセル Zuid/Midi (南)駅で大量の乗客が入れ替わり、ブリュッセルの市街地を縦断する地下路線に入っていく。
 まもなく、目的のブリュッセル Central/Centraal (中央)駅に到着する。

0 件のコメント: