2006年に廃線となった神岡鉄道。
鉄道は廃止となったものの廃線跡の線路を利用した「レールマウンテンバイク Gattan Go!!(ガッタンゴー)」なるアクティビティが運営され、人気を博している
ガッタンゴーは、トロッコの上に自転車載せて、後輪摩擦力で線路を走らせるハイブリッドな乗り物である。ようは自転車にまたがってペダルを踏めば線路の上をガタンガタンと走行できるトロッコである。
神岡鉄道の廃線跡ではガッタンゴーだけでなく、列車の運転体験もできる。神岡鉄道を走っていた気動車を運転できるのだ。
廃線跡活用の成功例を確認するため、飛騨市の旧神岡町に向かう。
おくひだ号運転体験
高山本線ひだ号で高山へ 高山からはレンタカーで神岡へ
神岡鉱山前跡地 暗い通路を抜けて運転体験へ
(上) 運転体験できる気動車 おくひだ号(下) 駅舎やホームは廃線当時のまま残されている
運転手順を丁寧に教えてくれる
飛騨・旧神岡鉱山前駅
名古屋から特急ひだで高山に向かい、そこからレンタカーで神岡へやってきた。高山本線の駅で言うと高山駅よりも飛騨古川駅が近いのだが、現在、高山線の一部が運休していて、ひだが高山止まりになっていることと、飛騨古川でレンタカーの調達が難しかったことがあり、やむなく高山から1時間かけて運転してきた。
まずは、旧神岡鉄道の気動車・おくひだ号の運転体験に参加する。
集合場所は、旧神岡鉄道の中心駅であった旧神岡鉱山前駅である。駅名に偽りなく、川を挟んだ対岸に神岡鉱山を営む神岡鉱業の工場がある。
神岡鉄道は高山線の猪谷駅から奥飛騨温泉口までの20キロの路線だった。なぜこんな山奥の鉄道が21世紀まで生き残ることができたのかというと、神岡鉱山の濃硫酸を運搬する貨物列車の収益があったかららしい。2004年に貨物輸送が終了し、収入源を失い、2006年末をもっては廃線となってしまった。
廃線後は観光列車を走らせる計画があったのだが、結局とん挫し、それが紆余曲折を経て、ガッタンゴーとなり人気を博している。廃線跡の活用は全国多々あるが、ここまで成功している例はなかなか見当たらない。(廃線ではなく、旧線の活用なら嵯峨野トロッコ列車があるかな?)
駅は普段は閉鎖されているのだが、運転体験の参加者は中に入ることができる。といっても入り口には立て看板があるのみで、暗い通路を通って、いかにも関係者以外通っちゃいけなさそうなトタンの壁をくり抜かれた扉をくぐってホームに向かう。
運転体験は距離や走行場所でいくつかのパターンがあるのだが、今回参加したのは一番お手軽な「オンデマンド運転体験」。なにがどう「オンデマンド」なのかはよくわからないが、1キロ弱の区間を1往復できるという体験である。
参加したのは私ともう一組。もう一組はちびっ子である。私が半世紀の人生を経て初めて念願かなって列車の運転ができるというのに実に羨ましい。
ホームに止まっていたのは単機の気動車、おくひだ1号ことKM-100形気動車。車両に乗り込み、簡単な運転の説明を終えると、いきなりブレーキハンドルを手渡され、即運転開始となる。
ブレーキ圧を開放し、ノッチハンドルを回すとエンジンがうなりを上げ、列車は静かに加速し始める。制限速度は20キロ。しばらく進むと、トンネルの中に入っていく。トンネルの中では風圧によって減速していくので、ときどきノッチを入れないといけない。
トンネルの出口が停車位置。ブレーキを少しづつかけながら停車位置に停車する。
ここで、進行方向を変えるための操作をいくつか行い、反対側の運転台へ移動する。あとは、さっきと同じ手順で元のホームへ戻っていく。
一往復の運転が終わると、今度はちびっ子と運転交代。鉄ちゃんらしく呑み込みが早い。最初の停車は急ブレーキだったものの2度目の停車は実にスムーズ。若さってすごい。
運転していた時間は10分足らずだったと思うが、実に素晴らしい体験だった。運転そのものは、電車でGOなどの運転シミュレーションと変わらない部分があるのだが、実際の列車の運転体験ということで、ATS(自動列車停止装置。単線とかの列車で「ジリジリジリジリ!」と鳴ったあと「ピッコンピッコン」と音がするやつ)やデッドマン装置(運転手が意識を失うと緊急停車する装置。常に踏んでおかないといけない)が作動しており、その操作を行わないといけない。これが思いのほか大変だった。いや、ローカル線のワンマン運転手の苦労が初めて分かった気がする。運転だけで大変なのに車掌業務もやらないといけない。頭が下がります。
ガッタンゴー まちなかコース
飛騨・旧奥飛騨温泉口駅
おくひだ号の運転体験を終え、次はいよいよガッタンゴーに乗車する。ガッタンゴーは「まちなかコース」と「渓谷コース」の二つのコースがある。今回両方乗車するのだが、本日は「まちなかコース」、明日「渓谷コース」を予約してある。
まちなかコースの出発地点は、旧神岡鉄道の終点・奥飛騨温泉口駅。3キロほど先に運転体験をした旧神岡鉱山前駅があり、そこで折り返すコースとなっている。
車で10分ほど移動し、旧奥飛騨温泉口駅に到着。現在はガッタンゴーの発進基地となっているが、神岡鉄道時代の駅舎、ホームがそのまま残されており、時刻表なども掲示されたままとなっている。
レールの上を自転車で走るというと簡単に聞こえるが、それなりに走行ルールがある。まず、神岡鉄道は超のつくローカル線だったので当然、単線であり、行き違いはできない。よって時刻ごとに集団で出発し、折り返し地点に到着後集団で折り返さなくてはならない。鉄道で言うところの続行運転が必要であるということだ。
ガッタンゴーの動力は自転車の後輪だが、ブレーキも自転車の後輪ブレーキがそのまま使用される。トロッコのブレーキとしてはちょっと心もとない仕組みなので、急には止まれない。だから車間距離も大事で、50メートルの車間距離を守るように指示される。
一定の車間距離守るためにはそれなりの脚力がいると思うかもしれないが、そこは問題ない。なぜなら、自転車は電動アシスト付きとなっていて、脚力がなくてもちゃんと速度が出るようになっている。
車両は台車の上に自転車が2台置かれ、間に一つ座席がある3人乗りタイプがスタンダード。そのほかにも自転車一台とサイドカータイプ、タンデム自転車2台の4人乗りなど様々な形式がある。
今回私が乗ったのはスタンダードな3人乗りタイプである。
出発時刻になると、係員の指示に従って、一定の間隔を空けて、順にスタートしていく。
スタート地点は駅のプラットフォームの高さになっていて、そこからスロープを下って本物の線路に降りる。行きは下り基調なのでぐんぐんスピードが出てくる。
とはいえ、自転車のタイヤの摩擦が効くので、下り坂でもそれなりに漕がないと進まない。これが普通の鉄輪の列車とは違うところで、暴走しない分、安全性が高いともいえ、アトラクションとしてはよくできていると感心する。
自転車を漕いでいる感覚なのだが、ハンドルと前輪は台車の上に固定され、ただの飾り。カーブは線路に沿って自然に曲がっていく。動力は自転車のタイヤの回転であるが、台車自体は鉄輪で支えられていて、通常の列車と同じように車輪の端っこのフランジがレールにひっかかり脱線を防いでいる。その意味では立派な鉄道であるので、レールの継ぎ目でちゃんとガタンガタンと音が鳴る。
電動アシストで誰でも運転でき、疾走感を味わいつつ安全面もしっかり考えられている。これは本当に素晴らしい乗り物である。
飛騨・旧神岡鉱山前駅
わずか10分ほどで、折り返し点の旧神岡鉱山前に到着。短いレール旅ではあったが、途中、真っ暗なトンネル、撤去されるずにそのまま残されていた駅のホーム、さらには橋や森など変化にとんだ景色を楽しむことができた。ただ、「まちなか」ではなくね? と、思わなくはない。
ちなみに、折り返し地点でどうやって車両を方向転換するかというと、ちゃんと各車両に反転する仕組みが付いている。係員が台車の真ん中の大きなフックを持ち上げると、床面の中央部に突起が飛び出してくる仕組みになっていて、その突起を軸にくるりと180度方向転換される。ローテクの塊であるが、あっというまに方向転換が終わり、とてもよく考えられていると感心する。
しばらく休憩したのち、行きとは逆の順序で発進し、奥飛騨温泉口駅へ戻っていく。行きは下りだったので、帰りは当然上りが続く。
帰りは集団の先頭になったのだが、その前方には係員が乗る原付バージョンのガッタンゴーが走って、ペースメーカーとなってくれる。上りなので途中気を抜きたくなるところだが、ペースメーカーがそれを許さず、必死にペダルをこぎ続けてなんとかゴールにたどり着いた。
気候もよく、本当に楽しかった。
飛騨・てまり東雲庵
ガッタンゴーを堪能し、本日のお宿へ移動しようかと歩いていたら、とても美味しそうな匂いが漂ってきた。旧奥飛騨温泉口駅のすぐ隣にてまり東雲庵という喫茶店があり、「五平餅」ののぼりが立てられている。正体はここに違いない。
店に入り、五平餅を注文すると、一本、一本丁寧に焼いてくれる。ごま成分多めのこの店、オリジナルの五平餅のタレらしい。たしかに独特の風味があり、甘すぎずとてもおいしい。ガッタンゴーに乗ったら、ぜひ食べてほしい。
飛騨・古川
今回の旅は1泊2日であり、明日はガッタンゴーのもう一つのコース・渓谷コースに参加する予定となっている。なので、神岡あたりに宿を取りたかったののだが、残念なことに神岡には宿泊施設がほとんどない。やむなく20キロも離れた旧古川町で宿泊することにした。
そんなわけで、30分ほどかけて、車で古川に移動してきた。
宿にチェックイン後、夕食がてらちょっと散歩しただけなのだが、高山線の飛騨古川駅のすぐ近くにある古い街並みは風情があってとてもよかった。高山と白川郷の陰に隠れていて、比較的近い名古屋に住んでいる私も古川は全くノーマークだったのだが、今度、ぜひゆっくりと散策に訪れたいと思った。
ガッタンゴー 渓谷コース
飛騨・旧漆山駅
翌朝、再び神岡に向かう。
ガッタンゴー「渓谷コース」の始発は、神岡鉱山前から富山方向に7キロほど進んだ旧漆山駅である。
漆山は、神岡鉄道時代の神岡鉱山前の次の駅だったのだが、完全に渓谷の中である。いったい誰が利用する想定で作られた駅だったのか想像がつかない。昨日、「まちなかコース」を走った時は「たいして街中じゃないじゃん」と思ったものだが、ここに来てみれば、間違いなく前日は「まちなか」だった認めざるを得ない。文句を言って申し訳なかった。
漆山駅には駅舎がないので、ガッタンゴーの発信基地は、ホームを大きく囲ったビニール屋根の下にある。隣には、プレハブの待合室も作られている。
「渓谷コース」も「まちなかコース」と同じく、時刻通りに集団で出発する。違いは、行きが上りで帰りが下りということ。気持ち的には、「行きはよいよい」よりは「帰りがよいよい」の方がうれしいので、これはありがたい。
もう一つ違いがあり、「まちなかコース」は50メートルの車間距離を求められたが、「渓谷コース」は20メートルらしい。この30メートルの差がどこからきているのかはわからなかった。
時刻になり、順番に出発していく。私は前から2番目である。
「渓谷コース」は、「まちなかコース」よりも傾斜がゆるく、上りもゆっくり景色を堪能することができる。見どころは、途中に3つある橋。中でも最初の橋は、川の上で大きくカーブしながら対岸に渡っていく。
渓谷の深い部分に線路が敷かれているらしく、道路は頭上数十メートル上にある。
片道の距離は「まちなかコース」と同じ3キロほど、景色を眺め、3つの橋と2つのトンネルを抜けると、あっという間に終点の二ッ屋に到着する。
飛騨・二つ屋トンネル前
「渓谷コース」の終点は、駅のあった場所ではなく、ガッタンゴーのために作られた専用の折り返しプラットフォームである。プラットフォームの先端はトンネルの入り口となっている。停車してガッタンゴーから降りると、係員が手際よく台車を回転させてくれる。
この場所から神岡鉱山前駅までは4キロほど。トンネルの多い区間なのでガッタンゴーとしては面白みにかけるのかもしれないが、奥飛騨温泉口から漆山までの10キロを通しで駆け抜けるコースがあっても楽しいのではないだろうか。(帰りの傾斜がかなりしんどそうではあるが...)
休憩を終え、再びガッタンゴーで漆山駅に向かう。
二つのコースのガッタンゴーの中で、渓谷コースの復路が一番楽しかった。最初から最後までほぼ下りで、ほぼ漕がなくてもぐんぐんスピードが上がっていく。森を抜け、トンネルをくぐり、渓谷を突き進む。
ジェットコースターとまではいかないが、かなりの疾走感である。
なので、行きよりもさらにあっという間に漆山に到着してしまった。
重力と電動アシストにかなり助けらているとはいえ、ガッタンゴーの動力は自分の足である。自分の力で線路を爆走するという体験は、実に楽しかった。
列車運転にガッタンゴー。二日かけて、神岡鉄道の廃線跡を遊びつくした。
新穂高ロープウェイ
高山・新穂高ロープウェイ
今回の旅のメインイベントは滞りなく終了したのだが、めったに来ない奥飛騨までやってきたので、もう一つ足を延ばして新穂高ロープウェイに向かうことにした。
新穂高ロープウェイは二つのロープウェイで高低差1000メートルを上昇し、北アルプスの山々を望む標高2000メートルの展望スポットまで運んでくれる。特に上段の第2ロープウェイは日本唯一の二階建ての巨大ゴンドラ。100人を超える乗員を一気に天空まで運ぶ。
第一ロープウェイの乗り場は奥飛騨温泉の中にあり、車から出ると硫黄の香りが漂ってきた。第一ロープウェイはよくあるタイプのロープウェイで、急角度で一段上の崖の上まで運んでくれる。
そこから数分歩いて隣の建物に移動すると、本命の第二ロープウェイがある。第二ロープウェイの全長は2キロを越え、高低差は845メートル。7分間で天空の世界に連れて行ってくれる。
改札を終えて乗り場に移動すると行く手は2つに分かれる。階段を昇れば上段デッキ、そのまま進めば下段デッキである。ちょっと迷ったが、やはり二階建てなら上段に乗りたいと、階段を上った。(ちなみに帰りに下段に乗ったが、眺めはほとんど変わらない気がします。どちらでもいいかも)
現れたロープウェイのゴンドラだが、驚くほど巨大。まあ、2階建てなので通常の2倍あるわけだが、それにしてもデカい。
ロープウェイが出発すると、まず一山を超える。ここを超えると、一気に視界が開け、北アルプスの山々が眼前に迫ってくる。そして、後ろを向いても山、そして山。どの山もその頂にまだ雪が残っている。
ロープウェイの終点・西穂高口駅に近づいてきた。駅の周りも雪が残っているようである。
降車後、まずは屋上の展望台に向かった。そこかから見える北アルプスの山々の美しさたるや。360度すべてが北アルプス。これは見る価値がありますわ。
周りには散策路があり、絶景ポイントがあるのだがまだ雪深く、駅から出てすぐに足を滑らしたので、早々に断念した。雪山はきれいだが、ちょっと早すぎたな...。
高山・平湯大滝
ロープウェイで下山し、あとは高山に戻って、ひだ号で名古屋へと思っていたのだが、帰り道「平湯大滝」という看板を見つけた。
経験上、「大滝」と名乗る滝には、「当たり」。「はずれ」がある。実際に大きな滝もあるのだが、やたら幅が広いだけの滝、ただの人工の崖、高さはあるが水がチョロチョロということもある。
平湯さんはどのタイプの大滝かと気になってしまったので、看板につられて道を曲がってしまった。
国道から離れて800メートルほど進むと、滝の姿が見えてきた。デカいぞ!
調べてみたら落差64メートルの直瀑、水量も十分。文句なしの大滝で、日本の滝百選にも選ばれているらしい。
滝というものは個性があり、どれも素敵なのだが、まっすぐ落ちる直瀑の迫力は格別。個人的には「大滝」を名乗るのは落差50メートル以上の直瀑に限ってほしいと思うのだよね。
レールマウンテンバイク・ガッタンゴー、お世辞にも訪れやすい場所である神岡にあるのだが、大人気で満員御礼だった。
鉄道時代の末期の年間利用者数が4万人、週当たりにすると800人だったそうなので、おそらく今の方が利用者が多い。その意味では間違いなく大成功だといえる。
廃線レールの上にトロッコを走らせるというアイデアはよくあると思うのだが、電動アシストバイクと組み合わせるというアイデアは秀逸だったと思う。バイクで鉄輪を回すのではなく、直接線路の上を走らせるので大掛かりな設備はいらないし、自転車は市販品をそのまま使える。そして何より、楽に走行できて、老若男女誰が乗ってもとても楽しい。
これからレールの維持更新費用がかさんでくると思うが、それもアイデアで乗り切って、ガッタンゴーが末永く続いてほしいと思う。そして、もうちょい延伸してほしいな。










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