2025-12-07

ホーバークラフトと伊予灘彷徨記(前編)

ホーバークラフトと 伊予灘彷徨記 2025/11/15-17

 ホーバークラフトとは、空気を下向きに噴出して船体を浮かせ、プロペラを推進力として進む乗り物である。
 今となってはとってもレアな乗り物となったが、かつては日本各地で高速船として就航していた。その後、メンテナンス費の高騰などを理由に廃止が相次ぎ、最後まで残っていた大分空港へのアクセス航路も2009年に廃止となり、全滅した。世界でもイギリスのワイト島航路を除いて、運行が消滅していた。
しかしながら、今年になって大分空港へのアクセス航路としてホーバークラフトが奇跡の復活を遂げた。日本で製造できなくなったホーバークラフトをイギリスから3隻輸入し、ホーバードライブという名で2025年7月25日から運行を開始している
 このブログが始まったのが2006年、乗りたかったのに乗りそびれた乗り物の筆頭がホーバークラフトだった。いつかイギリスに乗りに行こうと思っていたのだが、まさかの日本で乗ることができる日が来るとは思わなかった。

 せっかく大分に行くのにホーバークラフトだけではもったいないので、大分空港のある国東半島を起点に、フェリーで四国、本州、また九州と伊予灘をくるりと回ってみることにする。

ホーバードライブ

誘導路を走行するホーバークラフト

真新しいターミナル
本日の揺れレベルは1。船酔いしやすい私にはこれ以上にない朗報 堂々と正面から乗船

航行中のホーバークラフト

西大分ターミナルに到着
国東・大分空港

 2009年に廃止となったはずのホーバークラフトが大分空港で復活した大きな理由に、ホーバークラフトなら空港ターミナルのすぐ真横に乗り場を作ることができるからというのがある。
 大分空港は海に面した埋め立て地にある空港だが、ターミナルは海からは少し離れた内陸側にあり、近くに船着き場を作ることはできない。ところが、大分空港には以前使われていたホーバークラフトの誘導路が残されており、水陸両用のホーバークラフトならそれを再利用して、ターミナルのすぐそばに発着所を作ることができる。
 誘導路の末端に新しく建設されたホーバークラフトのターミナルは、国際線のターミナルのすぐ横。出口から徒歩1分の距離である。国内線からも徒歩数分で、バス停と変わらない利便性が確保されている。
 ホーバークラフトの誘導路だが、海からターミナルまでS字カーブを描くように作られていて、ホーバークラフトはドリフトするかのように滑らかに通過していくらしい。乗船前に、まずはその誘導路を見学することにする。

 空港の敷地のすぐ横に一号空港緑地という公園がある。その公園の真下がホーバークラフトの誘導路となっている。
 飛行機の滑走路も見下ろすことができるので、ホーバークラフトの到着時刻まで、飛行機を見ながら待つことにする。

 そうこうしているうちにホーバークラフトの到着時刻が近づいてきた。
 爆音を響かせながら目の前の誘導路をドリフトする姿を想像していたのだが、意外なことにとても静かにホーバークラフトは登場した。手前のカーブを曲がってその姿を現すまで全く存在に気が付かなかったほどである。(空港が近いので飛行機のエンジン音とかが常時聞こえていたせいもあるとは思うが)
 そろりと現れたホーバークラフトは、ゆっくりと滑らかにカーブを曲がっていった。陸上にしろ、海上にしろ、このような動きをする乗り物は見たことがない。ヘリやドローンのような動きで、やはりその巨体は浮いているのだと実感する。
 未知の乗り物過ぎてかっこいいぞ、ホーバークラフト。

国東・大分空港

 ホーバークラフトの走行姿を目に焼き付けたところで、今度は乗車するため、ホーバークラフトのターミナルに向かう。
 改札は出発の10分前からなので、真新しいターミナルの待合室で待つことにする。待っている乗客は20名いるかいないかぐらい。飛行機を降りた乗客の大半はレンタカーかバスで空港をあとにするようだ。ホーバークラフト、どうもまだ物好きが乗る乗り物ポジションのようだ。
 大分までのバスの乗車時間は最速で約1時間、ホーバークラフトはその半分の約30分。ただし、大分側のホーバークラフト乗り場は大分駅からやや離れた場所にあり、トータルするとそんなに差はない。料金がネックかというと、バスが1600円、ホバークラフトが2000円といい勝負なので、問題はそこではないようだ。
 想像だが、問題は時刻表にあるように思う。現状、ホーバークラフトは1日4往復のみで、夕方以降は運行していない。私が乗ってきた名古屋からの飛行機だと、1時間40分の待ち時間となり、普通ならバスを選ぶ。鶏が先か卵が先か的な部分もあるが、もう少し運行本数を増やさないと客は増えないのではないかと思ってしまう。

国東・大分空港

 定刻の10分前から改札が始まり、いよいよ乗船開始である。船に乗るというのに地上を歩いて乗り込むというのはかなり新鮮。
 出入口は船体の正面の左右にあり、右側の扉から乗り込んだ。
 外から見るとSFのような乗り物だが、乗ってしまうとやはり「船」。高速船にありがちな椅子が横にずらりと並ぶ座席配置となっている。
 席は自由席なので窓際を確保。高速船ゆえか、座席にはシートベルトが完備されている。
 全員が乗り込み扉が閉められると、乗務員は前方の梯子のような急な階段から2階の運転席に乗りこんでいった。しばらくすると、ゴム製のスカートが膨らみ始め、機体がふわっと浮き上がる。船体をUターンさせてから誘導路に向かうのだが、ホバリング状態でほぼその場で回転する。
 方向転換を終えると、船体がゆっくりと誘導路を進み始める。誘導路はS字に曲がっているのだが、あまりに滑らかに曲がるので、窓の外を見ないと曲がっていることに気が付かないぐらいである。
 誘導路を進み終えると、そのまま緩やかな斜面を下って海に進水する。このときも特にショックはなく、地上と変わらない乗り心地で、すーっと海の上を進み始めた。今まで乗ったことのあるどの乗り物とも違う、全くの未知の動きをする乗り物である。ホーバークラフト、カッケーっす。
 本日の別府湾は波がとても穏やかで、ホーバークラフトはまさに滑るように大分に向かって進んでいく。もちろんエンジンを積んでいるので微妙に振動しているのだが、波の揺れは全く感じなかった。あえて言えば、名古屋のリニモに似た乗り心地に思えた。
 ただ、本来、ホーバークラフトは波に強いかといえば、そうではなく、むしろ悪天候に弱い乗り物らしい。でも、この日は運よく、終始快適な乗り心地であった。

大分・西大分港

 40分ほどで、西大分ターミナルに到着した。
 西大分ターミナルは、神戸へのフェリーなどが発着する港の中にあり、海から斜面を上るととそのまま巨大な格納庫に入る構造になっている。船体は格納庫の手前で停車して、下船となる。
 下船時も前方の扉から船外に出て、歩いてすぐ横の待合室に向かう。ターミナルから大分駅への無料のシャトルバスが出ているので、多くの乗客はそのまま待合室を素通りしてシャトルバスに乗り込むことになる。
 私もバスに乗り込み大分駅に向かう。

高崎山

大分駅に到着。駅ビルの屋上にある櫓みたいなものがちょっと気になる

高崎山のお食事中のお猿

「うみたまご」の「あそびーち」
砂浜で泳ぐイルカをすぐ近くでみることができる
大分・大分駅

 大分駅に着いたのは13時10分。結局、大分空港からの約1時間かかったことになる。バスと全く変わらない...。ホーバークラフトは本当にすごい乗り物なのだが、果たしてバスに対して競争力があるのか心配になる。
 大分駅は何度か乗り換えたことがあるのだが、駅前は初めて見たような気がする。JR九州主要駅に必ずある駅ビル・アミュプラザが建てられている。
 ちょっと気になったのが、屋上に見える櫓のような建物。あれは展望台なのだろうか?

大分・高崎山自然動物園

 ホーバークラフトに乗船し、今回の旅の最大の目的は達成した。ホバークラフトは天候に弱いため、予備日として、今日の午後と明日の午前は何も予定を入れていないので、時間に余裕はある。
 大分駅の近くの観光地と言えば、まずは高崎山ということで高崎山自然動物園に向かうことにする。
 高崎山は野生の猿を餌付けした自然公園である。国道近くの入り口から園内に入り、やや長い階段を上ると餌場となっている広場があり、施設としてはそれだけである。
 長い階段を上ると開けた場所があるというのは、山寺にありがちの構造であるのだが、それもそのはずで高崎山自然公園は万寿寺という寺の境内にあり、使用料を払って使っているらしい。餌場の真ん中には「本堂建設予定地」という謎の看板が立てられていて、それとなく所有権は猿ではなく我にありということを主張している。

 階段を上り終えたらちょうど餌の時間で、匂いを嗅ぎつけた猿がわんさと集まってきた。餌場には柵があるのだが、猿は柵などお構いなしにそこら中を歩いている。猿は山の全ての自由を手に入れているが、人間は猿の餌場には入れないという、どちらかというと柵で人間が囲まれている逆転状態となっている。
 餌を撒いている間、飼育員(飼育はしていないので、給仕係?)が猿の説明をしてくれる。高崎山の猿の群れはボス猿がいることで有名だが、先代のボスは史上初のメス猿だったらしい。現在はナンバー2らしいのだが、それでもやたら威厳があり、そこらじゅうのメス猿と喧嘩しまくっていた。どこの世界でもメスはとても恐ろしい。

 ところで、このブログでは、実は2010年にも高崎山を訪れている。しかしながら、私の記憶から抜け落ちており、全く訪れた記憶がない。
 現地に行ってみれば思い出すと思ったのだが、やはり何も思い出せない。私は本当にここに訪れたことがあるのだろうか?
 やはり、人の記憶ほどあてにならないものはない。

大分・大分マリーンパレス水族館

 高崎山は見るところが1か所しかないので、わりとすぐに見学が終わってしまう。夕方まで少し時間があったので、国道を挟んだ向かい側の大分マリーンパレス水族館 うみたまごを見学することにする。
 この水族館の目玉は、本館の横にある屋外の展示施設・あそびーちらしい。イルカやペンギンなどの動物を柵越しではなく、見学者と同じ空間で見学することができるという施設である。
 ペンギン好きの私としては、これ以上のパラダイスはない。
 だったのだが、訪れた時間が閉館間近だったので、ほとんどの動物たちはバックヤードに帰ってしまっていた。時間によってはペンギンが散歩しているらしいのだが、その姿を一匹たりとも拝むことができなかった。猿を後回しにすべきだったのだが、後の祭り。無念である。

国道九四フェリー

アミュプラザ大分屋上の「夢かなうぶんぶん堂」とそこからの眺め 大分バス 急行D75 佐賀関行 佐賀関のフェリーターミナルは、古宮バス停のすぐ目の前 フェリー「涼かぜ」をイメージした「涼かぜソフト」
背後のフェリーは残念ながら「涼かぜ」ではなく、「速なみ」 「速なみ」へ乗船
(左下) 有料の展望席 (上) 佐賀関の港を出ると、すでにうっすら四国が見えている。
(左下) 佐多岬半島先端の佐多岬灯台
(右下) 目的地の三崎港 三崎港に到着 車、バイク、人の順で下船する
国東・大分駅

 一夜明けて、いよいよ伊予灘周遊の旅に出かける。九州から四国、四国から本州、本州からまた九州と3つのフェリーに乗って翌朝早朝に国東半島に戻ってくる予定だ。
 九州と四国を結ぶフェリーは、現状3航路あるのだが、今回は佐賀関から佐多岬半島を結ぶ国道九四フェリーに乗船する。
 が、その前に昨日気になった大分駅ビルの屋上にある櫓の探検に行く。
 アミュプラザおおいたの屋上は「シティ屋上ひろば」と名付けられ、ミニトレインなどの遊具が置かれている。その一角に例の櫓があったのだが、「夢かなうぶんぶん堂」という名前らしい。
 内部は会津若松のさざえ堂に似た二重らせん構造になっていて、最上部まで上ることができる。最上部からは大分市街地を一望できる。
 要は展望台だったのだが、見た目のインパクトの上に、塔を登る楽しさが加えた面白い構造物であった。

大分・大分駅前バスターミナル

 大分から佐賀関までは路線バスで移動するため、ぶんぶん堂から見えた駅前のバスターミナルへ向かう。
 乗車するバスは大分バスの急行・佐賀関行。大分市街地区間は急行運転するバスらしい。
 出発は定刻通りだったのだが、この日、大分市内で車いすマラソンが開催されていたせいか、すごい渋滞に巻き込まれ、本来は1時間15分でつくところが、2時間弱かかってしまった。余裕のある日程を組んでおいて正解だった。
 バスの終点・佐賀関の手前、古宮というバス停が九四フェリーの乗り場のすぐ目の前。バス停から徒歩2分でターミナルに到着する。
 さっそくチケットを購入する。旅客運賃は1200円だが、追加で500円払うと前方の展望座席に座ることができるというので、展望席チケットも購入した。
 出発までの時間、ターミナルで売っていた青と黄色のあまり見たことがない取り合わせの2色ソフトクリームを食べながら待つことにした。この青と緑の組み合わせは、九四フェリーの最新鋭の船「涼かぜ」をイメージしたもので、青い部分はミルク、黄色い部分は大分の名産「かぼす」味になっている。せっかくなので「涼かぜ」とソフトのツーショットを取ろうと屋上に上がったのだが、停泊していたのは、残念ながら別の船の「速なみ」。私が乗船するのもこの船らしい。
 ツーショットは撮れなかったが、ソフトクリームが思いのほかおいしかったので、良しとする。

大分・佐賀関港

 出航の10分前から徒歩の乗船が始まる。徒歩用のボーディングブリッジなどはなく、車と同じ通路を歩いて乗船する。そのため乗る時も降りるときも、徒歩組が一番最後となる。
 九四フェリーは、一日16便、70分で九州と四国を結んでいる。九州、四国間の最速ルートとなるので、車両甲板がほぼ埋まるほどの盛況ぶりである。船内は横並びの客席を中心に、雑魚寝スペース、窓際の展望席、グループ席などさまざまな座席があり、ほどほどに埋まっていてる。売店も営業して、ちょっとしたお菓子屋やドリンクを購入することができる。
 500円の大枚をはたいて乗り込む展望席は3階のデッキにあり、チケット購入時に渡されるいかつい鍵でシリンダー錠を回して入場する。船舶の高い位置にあり、真正面なので、確かに眺めはよい。さらにコンセントもあり、スマホの充電も可能なのがありがたい。
 佐賀関の港を出ると、もうすぐ目の前に四国の佐多岬半島の先っぽが見えている。
 1時間もかからずについちゃうのじゃないかと思ったのだが、到着する三崎港は半島の先端から10キロほど奥まった小さな湾の中にあり、四国の先端が近づいてからが結構長い。
 本日も昨日に引き続き、海は穏やかで快適な船旅であった。

松山へ

(上) 伊予鉄南予バス 八幡浜・三崎特急線
(左下) 三崎港口バス停
(右下) 国道197号線の車窓は絶景 八幡浜駅前に到着 八幡浜駅 特急 宇和海24号で松山へ (上) 松山駅は高架駅になっていた
(下) 地上駅時代の構造物は、今まさに解体されている最中 ビルに埋め込まれたかのようなホーム、すぐ隣の道路では市内線が直交する。
変わらぬ姿でそこに佇む伊予鉄の大手町駅
伊方町・三崎港

 九四フェリーが到着した三崎港から、次のフェリーに乗船するため、バスと鉄道を乗り継いで松山に向かう。
 やたら東西に細長い佐多岬半島は約50キロの長さがある。三崎港は先端から10キロほどの場所にあり、そこから半島の根元まで国道197号線が整備されている。実は国道197号線の終点は海を渡った大分市の県庁前交差点。さっき乗ってきた九四フェリーは国道197号線の海上区間にあたり、これが「『国道』九四フェリー」の名前の由来になっている。
 三崎港からの唯一の公共交通機関はバスなのだが、これが1日2便しかなく、しかもそのうち1便は早朝便。そのため、今回の旅で使えるのは実質1便のみ。このダイヤが足かせとなり、この後の行程が深夜に及ぶことになっている。
 三崎港を出てすぐ右手にバス停があり、定刻通りにバスがやってきた。乗客は案の定、私ともう一人の二人のみ。終点は半島の根元の八幡浜駅だが、それまでの間にあと一人乗車したのみである。この乗客数でよく2便の運航を維持しているものである。
 そんなわけで、路線バスでありながら八幡浜駅まではほぼノンストップ。国道197号線が高速道路並みに整備されていることもあり、あっというまの1時間15分で八幡浜駅に到着した。

八幡浜・八幡浜駅

 バスの終点・八幡浜駅前に到着。記録によると、八幡浜駅もまた17年前に一度訪れているようなのだが、やはり全く見覚えがない。どうやら私の記憶はブログという名の外部ストレージにのみ存在していいるようである。
 八幡浜駅から松山駅までは予讃線の特急宇和海24号で移動する。

松山・松山駅

 八幡浜から特急・宇和海で1時間、松山駅に到着した。さすがに何度か訪れたことのある松山駅なら見覚えがあるだろうと思ったのだが、そこは全く見覚えのない真新しい高架ホームであった。
 「ここどこ??」と狐につままれた気分だったが、どうやら昨年から高架ホームになったそうだ。
 高架ホームを降り改札から出ると、昨年まで線路やホームがあった場所は解体工事中の真っ最中。見覚えのある駅舎も、今まさに壊されようとしていた。
 記憶にないものが存在し、記憶にあるものは壊される。現実とはまさに虚構なり。

松山・大手町駅

 次に乗船するフェリーは、松山と本州の柳井を結ぶ防予フェリーである。防予フェリーの乗り場のある三津浜港までは伊予鉄の高浜線で移動する。
 松山駅から伊予鉄の大手町駅間は市内電車も走っているが、大した距離ではないので徒歩での乗り換えることにする。松山駅からまっすぐ伸びる大通りを歩くこと5分、ビルの谷間に、見覚えのある駅が現れた。ビルの1階に埋め込まれたかのようなホーム、そのビルの隅っこにある改札、線路を挟んだ反対側はさらに狭いホーム。うむ、間違いなく私の知っている大手町駅である。ついに記憶と現実が一致し、異世界からようやく現実世界に戻ってきた気分である。

後編に続く (coming soon....)

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