2025-12-08

ホーバークラフトと伊予灘彷徨記(後編)

 日本で唯一、世界でも2箇所でしか運行していないホーバークラフトに乗船するために大分にやってきた。
 未知の乗り物ホーバークラフトを堪能した後は、四国、本州、九州と伊予灘をくるりと反時計回りでフェリーを乗り継ぐ旅に出発した。
 九州から四国へは、佐賀関と佐多岬半島を結ぶ国道九四フェリーに乗船。続いて、防予フェリーで本州にわたるため、バスとJR特急・宇和海を乗り継いで松山に移動した。
 そこからさらに伊予鉄高浜線に乗り換えて、フェリー乗り場に移動する。

三津浜港へ

伊予鉄高浜線で三津へ移動 伊予鉄三津駅 三津駅から住宅街を15分ほど歩いて、三津港に到着
(右上) 三津港フェリーターミナル
(右下) 徒歩乗船用改札
松山・三津駅

 JR松山駅から徒歩で伊予鉄の大手町駅に向かい、そこからは高浜線で5駅10分。防予フェリー三津浜港の最寄り駅、三津駅に到着した。
 最寄り駅ではあるのだが、三津駅から三津浜港は微妙に1キロほど離れていて、徒歩15分ほどの距離である。その間は完全な住宅街で、夜に見慣れぬ顔のおっさんが歩いていたら通報されるのではないかと心配になる景色である。
 近所の散歩を装いながら、なんとか通報されずに港に到着。切符売り場で柳井行の乗船券を購入し、乗船開始を待つことにする。

防予フェリー

防予フェリー「おれんじぐれいす」 (左上) 船内に乗客はまばら
(右上) 三津港を出港
(左下) 本州のあかりが見えてきた
(右下) 周防大橋と本州を結ぶ大島大橋をくぐる 柳井港フェリーターミナル 柳井港駅 山陽本線で徳山へ
松山・三津浜港

 出発の10分前に乗船開始となった。船の2階デッキへと架けられたタラップを上って「おれんじぐれいす」に乗船する。徒歩乗船の乗客は4名。他はトラックの運転手と思われる乗客が7,8名ほど。
 そう広い船内ではないが、さすがに10名そこそこの乗客では持て余す広さ。雑魚寝スペースを一面占拠したり、横並びの座席を1列占拠して横になったり、グループ席を一人で占拠したり、各々思い思いに居場所を確保する。私は4人掛けのボックスシートを確保することにした。
 町はずれの小さな港であり、出航するとすぐにあたりは真っ暗。本来であれば、もう少し早い時間の便に乗りたかったところだが、例の佐多岬半島のバスの関係で、やむなくこの時間の乗船となった。
 船内に売店はなく、飲み物とカップラーメンの自販機があるのみ。誰かが食べていると食べたくなるのか、カップラーメンがそれなりに売れていた。
 乗船時間は2時間半ほど。旅の疲れで眠くなってきたところ、うとうとしているうちに瀬戸内海を縦断し、本州が近づいてきた。
 あまり荒れることのない瀬戸内海だが、今日は特に穏やか。この航路もまた全く揺れのない快適な旅となった。
 デッキに上がり対岸を眺めてみたのだが、やはり暗くてよく見えない。しばらくして、ようやく街の明かりが見えてきたかと思うと、もうすでに柳井港は目の前。
 本州と周防大島を結ぶ大島大橋というむっちゃ普通名詞の名前が付けられた橋をくぐって、柳井港に入港する。
 船は向きを90度変えてから、静かに港に横付けされた。よく器用に操縦できるものである。

柳井・柳井港

 柳井港のターミナルは比較的新しい建物のようだが、ゆっくりと建物を見ている時間はなく、次のフェリーに乗船する徳山港に移動しなくてはならない。
 柳井港から徳山港へは山陽本線で移動するのだが、次の列車が最終列車なので、乗り遅れるわけにはいかない。
 といっても、港から最寄りの柳井港駅までは柳井バイパスと呼ばれる国道を渡ってすぐの場所にある。徒歩数分、実は、そんなに急ぐ必要はなかったようだ。
 無人駅の駅舎を通り、跨線橋を渡って下り1番乗り場で列車を待つ。11月も半分を超えて、さすがに夜は肌寒くなってきた。
 定刻通りにやってきた列車はなんと国鉄時代の主力電車である115系。製造終了からもぼちぼち半世紀が経とうかという車両だが、山陽本線の山口近辺ではいまだに現役である。さすがにシートなどの内装は新しくなっているようだが、それでもそこかしこから国鉄時代の残り香を漂わせている。
 ちなみに山陽本線のこの区間は、戦前の一時期、現在の岩徳線ができた際、山陽本線から外れ支線の柳井線となった時代がある。一度、支線となったはずだが、その後の複線化で再び本線に復帰し、今度は岩徳線が支線となった。一度転落したのち、再び這い上がった根性のある路線である。
 柳井港駅から8駅40分で、徳山駅に到着。この旅最後のフェリーとなる、スオーナダフェリーに乗船し、九州に帰還する。

スオーナダフェリー

徳山駅 北側の駅舎は図書館になっている むごい仕打ちを受ける徳山港フェリーターミナル スオーナダフェリー ニューくにさき ニューくにさきに乗船し、徳山を出発 竹田津港に到着 国東半島に戻ってきた
周南・徳山駅

 終電で徳山にたどり着いたが、次のフェリーの出航時間は翌日未明の2時。まだ3時間ほど時間がある。
 駅前で何か夕飯にありつこうとしたが、どの店も11時でオーダーストップ。日曜日のせいか、人影もまばらである。そん中、唯一夕飯難民を受け入れてくれたのは24時間営業の吉野家。ありがとう吉野家さん、牛丼の御恩は忘れません。

 牛丼で腹を満たしたところで、駅を挟んで反対側にあるフェリーターミナルに移動する。
 徳山もまた、駅とフェリーターミナルはすぐ近くにあり、駅から徒歩5分でフェリーターミナルに到着した。
 早く着きすぎたので、まだ窓口は空いておらず、乗船券を購入することはできない。しばし、待合室で休憩することにする。
 で、その前にトイレで用を足そうと思ったのだが、なんと深夜は「トイレ使用禁止」との張り紙。おいおいおい、これからフェリーに乗ろうとする乗客に対して、「トイレを使うな」は、あんまりではないのかい?
 周りにトイレを借りれそうな場所はなさそうなので、フェリーに乗船するまでおしっこはガマンしろということらしい。最悪やな。

周南・徳山港

  1時ごろに窓口が開き、乗船券を購入、その後、出航の30分ほど前にスオーナダフェリーの「ニューくにさき」が入港してきた。総トン数725トンの中程度のフェリーだが、今の私には海に浮かぶ巨大なトイレにしか見えない。
 15分前から乗船が始まったが、深夜なので徒歩乗船するのは私のみである。先陣を切ってタラップから乗船すると、とりあえずトイレに向かう。
 客室のある甲板にトラックの運転手らしき乗客が総勢10名ほど上ってきた。各々お好みの座席やマス席やのスペースを確保し、仮眠に入るようである。
 船内を探索すると客席の後部の自販機コーナーの後ろにスロットマシンが3台ほど並んでいた。それ以外、これといって特徴はなさそうである。
 ところで、このフェリーは、徳山と国東半島の北側の竹田津港を結んでいる。航路は国東半島より西側なので、名前の通り周防灘を縦断している。今まで、「伊予灘を周遊」と言ってきたが、厳密にはこの部分は伊予灘のやや外側を進むことになる。
 竹田津港まではちょうど2時間。尿意からも解放されたことなので、私もマス席を確保し、安心して仮眠することにする。

国見町・竹田津港

 2時間後、船は定刻通り竹田津港に入港した。
 船酔いしやすい私ですら、全く船酔いの気配を感じないほどの快適な船旅であった。この旅の四航路は、全てほどよい凪の海であった。
 三津港や柳井港にも増して真っ暗で、小さなターミナルの建物以外からは明かりはほとんど見えない。
 ただ一人、徒歩で下船し、14時間ぶりに九州への帰還を果たした。
 あとは大分空港に戻って、名古屋行きの飛行機に乗るだけなのだが、始発のバスの時刻は午前7時ちょうど。あと3時間ほど、ターミナルの待合室で夜風をやり過ごさせていただく。

大分空港へ

竹田津港で朝を待つ 国東行の国東観光バスに乗車 小原で大分交通・杵築駅前行のバスに乗り換え 大分空港に帰還 大分空港のキャラクター
空にあこがれマーシャラーになったペンギンの「マーシャルくん」
国見町・竹田津港

 ターミナルの待合室の片隅で朝を待っていると、空がだんだん白んでくるのが見えてきた。6時を回ると時々外に出て、日が昇りかけている東の空を眺める。
 東側は海ではあるものの対岸に山があり、日の出の時刻を過ぎても、なかなか太陽は姿を現さなかった。結局、バスの出発時刻までに、太陽が山から顔を出すことはなく、日の出をみることは叶わなかった。
 ただ、星の見える夜空から朝の空に切り替わる様子を、ゆっくりと眺めることができたのは、とても新鮮な経験であった。
 竹田津港のターミナルは、景色がよいだけでなく、徳山とは違い深夜もトイレを使わせてくれる。今回の旅の一番の発見は、竹田津港は神であり、徳山港ターミナルはカスであるという事実である。私が知る限り、トイレが使えない港は見たことがない、徳山港は世界最低のターミナルであると断言しておく。トイレの恨みは怖いぞ。

 朝7時、竹田津港が始発の国東行きのバスに乗車する。
 平日なので、それなりに乗客がいるのかと思いきや、短距離で乗り降りした乗客が何人かいたのみだった。
 途中、すっかり日が昇った海の真横を通り、国東半島の東の端を目指して、バスは進んでいく。45分ほど乗車し、終点の国東バスターミナルの一つ手前のバス停・小原で降り、バスを乗り換える。
 ほぼ待ち時間なく、大分空港を経由して杵築駅前へ向かう大分交通のバスがやってきたので、捕まえる。

国東・大分空港

 20分後、無事大分空港に到着した。
 名古屋便の出発まで時間があったので、ターミナルをウロウロしていたのだが、屋上の展望台につながる通路で、大分空港のマスコット・マーシャル君を発見した。
 ペンギンの地上誘導員らしく、パドルを手に飛行機を誘導している姿が通路に描かれてて、むっちゃかわいい。これはグッズを購入したいと空港の案内所に聞いてみたのだが、足湯用のタオルしかグッズがないらしい。それは、もったいないぞ大分空港。某JR東日本のペンギンが引退するらしいので、商機あるぞ、大分空港!
 もちろんしっかりタオルは購入した。次に来る時までには、マーシャルくんグッズを増やしておいてほしいと、切に願う。

 ホーバークラフトはすごい乗り物でした。ふわりと浮上した後の動きが滑らかすぎて、むしろ不自然としか思えなかった。
 多分、一番近い動きをするものはヘリコプターかドローン。これらに乗ることはなかなかできないが、大分のホーバークラフトは常設の公共交通機関。ぜひ、一度乗ってみてほしい。
 余計なお世話であるが、現状の乗客数だと航路を維持するのはかなり厳しそうなので、興味がある方は早めに乗りに行くことをお勧めする。「推しは推せるうちに推せ。」って言うからね。

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