1999-08-15

特別編 1939年 欧亜大陸鉄道の旅(#5 Day 3/安東 - 新京 - ハルビン)

 第二次世界大戦直前の1939年にタイムスリップして、東京からロンドンまでの仮想大陸横断鉄道旅行を行っている。
 朝鮮半島の海の玄関口釜山を出発した急行ひかりは、3日めの朝、安東から満州国へ入国し、首都・新京を目指す。

南満州鉄道株式会社鉄道路線及委託経営鉄道線路略図
昭和16年(1941年)3月末現在 南満州鉄道株式会社調査部資料課製
旅のルートを着色(満鉄を青色、その他を赤色)

南満州鉄道

 満州国の国内は、南満州鉄道、通称・満鉄の路線を走行することになる。
 満鉄は、日露戦争後ロシア帝国から譲渡された旅順-長春間の鉄道経営を目的に設立された国策企業である。
 その後、1932年の満州国成立を経て、1939年時点では日本の租借地である関東州と満州国全域に1万キロを超える鉄道路線を張り巡らせていた(厳密には、大部分の鉄道路線は満州国国鉄所有で、満鉄が経営を受託)。さらに朝鮮半島と中華民国北部へも直通特急を走らせていた。
 満鉄の基幹路線は大連と満州の首都・新京を結ぶ連京線である。連京線にはあじあ号という満鉄の看板列車が走っており、大連から新京を超えて 哈爾濱(ハルビン)までの950キロを12時間35分で走破していた。この速さは評定速度でいうと、時速74.9キロ(大連-新京間では時速80キロを超えていた)となり、本土の特急よりも時速10キロ程度速い速度であった。(あじあ号の停車時刻は、欧亜大陸鉄道の時刻表を参照)

満州支那汽車時間表

満州支那汽車時間表 昭和15年8月号
(1940年ジャパン・ツーリスト・ビューロー/2009年 新潮社 復刻版)

 さて、満州国に入ったので、ここからは満州の時刻表を参照することになる。
 満州国は日本の傀儡国家であったことから、日本語の時刻表がジャパン・ツーリスト・ビューロー(現JTB)から発行されていた。#1 プロローグでの紹介した「満州支那汽車時間表」の昭和15年(1940年)8月号(2009年新潮社復刻版)を見ていくことにする。
 日本語の時刻表なので、体裁としては現在や当時のJTBの時刻表とよく似ている。ただ一点、本土の時刻表と大きく違う点があり、満鉄では24時間制が採用されており、我々にとって見慣れた24時間表示の時刻表となっている。
 また巻頭に「満州・日本連絡」という満州から日本に行くときの連絡時刻表が記載されていたり、巻末には朝鮮や本土の時刻表の抜粋が乗っていたり、満州の時刻表の抜粋が掲載されている本土の時刻表と対を成すような編集がされていることが面白い。
 膨大な路線網を抱えていたはずの満鉄だが時刻表の掲載ページは40ページほど。同時代の本土の時刻表が200ページを超えていた(しかも字がかなり小さい)ことと比べると、列車の運行密度はあまり高くはなかったことが伺える。
 満州の標準時はこの時代、日本の標準時(GMT+9)が採用されていた。つまり、当時は樺太から台湾、朝鮮、満州まで同じ時間を使っていたということになる。

安奉線・連京線

#3 釜山 - (安東) - 新京
dep: arr: 急行 ひかり 新京 行き

急行ひかり 満鉄部分の時刻表

 さて、欧州への旅を続けよう。
 朝鮮半島をひかり号で北上してきたが、ひかり号はそのまま満鉄に乗り入れ、新京を目指す。
 安東で満州の入国手続を終え、列車は11時50分に出発する。ここから奉天までは安奉線と呼ばれ、朝鮮満州間を結ぶ主要幹線となっていた。安奉線の終点・奉天に到着するのは夕方の17時9分。時差を考えるとまだ暑い最中に到着したことであろう。
 奉天は連京線の主要駅で、朝鮮に向かう安奉線と当時北支と呼ばれていた中華民国北部に向かう奉山線の起点にもなっており、満鉄最大のジャンクションと呼べる駅であった。
 ここから列車は満鉄の本線・連京線に乗り入れて新京に向かって北上する。
 新京までは4時間半。すっかり夜も更けた21時45分に終点・新京に到着する。釜山から新京までのひかり号の乗車時間は都合27時間近く。この日は3食をひかり号の食堂車で済ませたことだろう。

 急行ひかりの通過時刻表は、欧亜大陸鉄道の時刻表のページでも確認可能です。

京濱線

#4 新京 - ハルビン
dep: arr: 603列車 三果樹 行き
603列車 時刻表

 満州の首都・新京についたのもつかの間、暗いホームへ降りたったその足で、次の列車に乗り換える。
 次の列車は新京とハルビン(哈爾濱)を結ぶ京濱線の普通列車である。この旅初の鈍行列車への乗車である。よって、3泊目は名もなき普通列車で一夜を明かすこととなるのだが、普通列車とは言え、ちゃんとした寝台列車であり、1等から3等までの寝台車が併結されている。
 深夜遅く22時35分に新京を出発し、ハルビンへは翌早朝6時20分に到着する。この列車の乗車時間はほぼ全てベッドで横になって過ごすことになりそうだが、寝台列車に乗っていると、なぜか駅に停車する度に目が覚めてしまう。頻繁に停車するこの列車で果たして朝までぐっすり眠ることができるのだろうか?

 603列車の通過時刻表は、欧亜大陸鉄道の時刻表のページでも確認可能です。

連京線上り時刻表上部に記載されていた 奉天・新京間の沿線案内
参考文献
  • 満州支那汽車時間表 昭和15年8月号 (1940年) ジャパン・ツーリスト・ビューロー / 復刻版 (2009年) 新潮社
  • 日本鉄道旅行地図帳 歴史編成 満州 樺太 (2009年) 今尾恵介・原武史 監修 新潮社

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