2017-05-05

大井川鐵道全線制覇と長島ダム見学 (後編)

 SL、そして機関車トーマス号で有名な大井川鐡道の大井川線、そしてその先に伸びる山岳路線・井川線の全線を制覇し、途中の長島ダムの見学会に参加する旅。
 長島ダム駅に到着し、いよいよダムの内部へ潜入開始。

巨大ダムの内部へ潜入

ダム内部の通路 いかにもな業務用通路感 巨大な放流ゲート
大きすぎて写真に納まりきれないが、赤い部分が可動式のゲート 予備ゲートの巻き上げ機
人と比較するとその巨大さがわかる
川根本・長島ダム

 長島ダム駅の目の前、道を挟んですぐそこに長島ダムとその管理事務所がある。いよいよお待ちかねのダム見学会である。
 受付を済ませ、長島ダムの概要説明を受けた後、お決まりのヘルメットを装着し、ダムの内部へ出発。
 長島ダムは重力コンクリート式ダムというタイプのダムで、見た目の通りコンクリートの塊が水をせき止めてその自重で支えるという単純な仕組みのダムである。となると、基本的にはダムの中はコンクリートで満たされており、ダムの機能に必要な設備とそれらの設備をつなぐ通路が埋め込まれているという構造となる。
 今回見学する設備は2箇所で、一つ目が放流ゲートで、もう一つがそのゲートの点検時に使用する予備ゲートである。
 長島ダムは治水用のダムなので、ダム湖に流れ込んだ水量に合わせて適切に水を放出する必要がある。その為のゲートが6門設置されていて、それぞれ1秒間に25メートルプール3倍分もの水量を排出できるらしい。ゲートは巨大な扇形となっていて、これが振り子状に可動することで水量を調整する仕組みとなっている。
 また、通常のゲートを点検する際、代わりに水をせき止めるゲートが予備ゲートで、こちらは単純な鉄板状のゲートとなっていて、普段は上に引き上げられて開放されているが、使用時は水門を塞ぐように下ろされるとのこと。

 管理事務所の片隅の扉を通ってダムの中に入ると、コンクリート打ちっぱなしのいかにも殺風景な通路が奥の方まで続いている。その通路を少し進んで、エレベータに乗って、ダムの下部にある放流ゲートに移動する。エレベータの内部は、なぜかエジプトのヒエログリフ的な文様が描かれており、よくはわからんが巨大建造物に対する気概のようなものを感じる(ということにしておく)。
 エレベータを降りるとさっきと変わらないコンクリートの通路があるのだが、空気が少し違っているように感じる。この場所はダム湖の水面よりもかなり低い位置にある。つまりは壁の向こうは湖の水面下。そのため、季節を問わず温度が10℃程度でほぼ一定らしい。
 通路を進み、6門並ぶゲートのうち3番目のゲートに入る。中には赤く塗られたゲートが稼動軸から吊られているのだが大き過ぎてよくわからない。階段を下りて、少し下からゲートを見ることができるのだが、それでも大きすぎて全容がつかみづらい。
 ともかく、巨大なゲートが今現在も水をせき止めていて、このゲートが全開となると、足元に大量の水が流れ込み、ダムから放出されるらしい。ゲートの横に人間の身長ほどの大きな穴がついているのだが、これは空気を取り込む穴で、この穴がないとゲート開放時、水の勢いで空気が吸い出されて真空状態になってしまうらしい。
 もう話のスケールが大きすぎて何がなんだかわからない....。

 再びエレベータに乗って元のダム上部の通路に戻り、もう一つの見学ポイントである予備ゲートに移動する。
 予備ゲートはワイヤーで鉄板上のゲートを上げることで開放されるのだが、そのワイヤーの巻き上げ機が設置されている場所を見学。ともかく感想としては「デカい」以外の言葉が出てこない。
 ワイヤーを巻き上げる機械も当然大きいのだが、もうワイヤーそのものがありえないほど太い。
 いや、ダムのスケールってすさまじいですわ。

長島ダム周辺を散策

(上)長島ダムのダム湖・接阻湖
(下)ダムの堤頂からダムの下部を見下ろす (上)旧井川線のトンネルを利用した遊歩道
(下)アプト式線路を下っていく列車 下りは機関車が坂が転がるのを押さえている (左)なんとか階段を降りきってダムを見上げる
(右)しぶき橋を渡る 終点には鹿侵入防止網が設置されている
川根本・長島ダム

 カメラに収まらないほど巨大なダムの装置群の見学を終え、ダムの堤頂に戻ってきた。100メートルを越えるダムの頂上からの眺めも素晴らしいが、せっかくダムに来たのであればその威容を下から見上げてみたいものである。そんなわけで、ダムの堤体の脇に設けられた階段を降りてみることにした。
 わかってはいたのだが、100メートルと言う高さはビルで言えば20階分ぐらい。下るのですらかなりしんどい。帰りのことは考えないようにして、ひたすら階段を降り続ける。
 なんとか、地上まで降りて見上げてみればやはりの迫力。こんなもんが決壊したらどうなるんだろうと、せんない想像をしてしまう。
 ダムの少し先に”しぶき橋”という橋が架かっているのだが、そこに行くまでには、ダムの脇の崖をえぐるように作られた暗く狭いトンネルを通り抜けなくてはならない。比較的新しいダムの施設に似つかわしくない、いかにも古そうな作りなトンネルなのだがそれもそのはずで、かつて井川線が使っていたものとのこと。
 ダムより上流では、旧・井川線の廃線跡の大部分がダム湖に沈んでしまっているのだが、ダムよりも下流側では廃線跡が残っていて遊歩道として活用されているらしい。

 旧井川線のトンネルを抜け、ダムの放水を多少あびる”しぶき橋”に向かう。
 目の前の山にはさっき乗ってきたアプト式の線路が敷設されていて、ちょうど電車が下っていくところに出くわした。
 アプト式の機関車は坂を登るときは列車を押し上げるのだが、下るときは列車の先頭に連結されブレーキをかけながら降りていく。
 そんな井川線を見上げながら、しびき橋を渡って、川の反対側へ向かう。
 反対側の岸に上陸しようとしたら、橋の出口が網で閉鎖されていた。
「おいおい、行き止まりかよ!」と、一瞬思ったのだが網には張り紙が貼られていて「鹿よけのため扉を開けたら、閉めておいてください」と書かれていた。人間様は通過できるが、鹿は通行不可ということらしい。
 まあ、鹿とは言え、逃げ場のない橋の向こうから迫ってきたら、そりゃ恐ろしいわなぁ。
 で、橋を渡ったら、当然、元の堤頂に戻らないと、駅に戻ることも出来ないわけで、待っているのはビル20階分の階段。
 気は進まないのだが、上る以外に選択肢は無い...。

井川線はさらなる秘境へ

(上)究極の秘境駅・尾盛駅 もはや駅ですらない雰囲気
(下)地面からの高さ日本一の鉄道橋・関の沢橋梁
川根本・長島ダム駅

 ダムを上り降りして無駄に疲れ果てたところで、再び長島ダム駅へ。
 目的の長島ダム見学は果たしたものの井川線はまだ途中。山岳鉄道たる井川線が本領を発揮するのはこれからなので、終点まで乗っておかないと消化不良なる。
 長島ダムからしばらくは、ダム湖である接岨湖の湖畔に線路が敷かれている。途中半島上に突き出た場所にある奥大井湖上駅を通る際、その前後で大きな鉄橋を渡るのだが、この鉄橋はレインボーブリッジと名付けられている。
 「レインボーブリッジ?!」と、思った人もいるかもしれないが、お台場のアイツよりもこちらの方が先に完成している。元祖はこちらで、パクったのはあくまでもアイツの方である。

 奥大井湖上駅から2駅、ここでもう一つ井川線で忘れてはならない駅がある。終点の井川駅の2駅手前にある尾盛駅である。
 いわゆる秘境駅の一つなのだが、周辺に民家がないどころか、駅に到達する公道すら無いという意味で、正真正銘の秘境にある秘境駅なのである。降りたが最後、登山道を通って山を越えるしか脱出方法は無く、隣の駅にすら行くことは出来ない。
 まあ駅と言ってもちょっとした広場でしかなく、ホームすら部分的にしかない。
 こんな駅に乗り降りする人はそうそういないと思うのだが、車掌さんは律儀に一度駅に降り立ち、乗降客がいないことを確認してから出発の合図を出す。
 なお、熊も出るらしいので降りる人は注意したほうがいいのだとか...。

 さて、尾盛駅を出発した列車は、次の閑蔵駅に至る間に関の沢橋梁という地面からの高さが日本一の鉄道橋を通過する。
 はるか70メートル下の関ノ沢川を眺めるため、列車は速度を落としながら通過してくれる。見下ろしてみれば、確かに地面が遠い。どうやってこんな峡谷に橋を架けたのだか...。
 そして、閑蔵駅の次はいよいよ終点・井川駅である。
 しかし、この最後の一駅間が井川線で一番長い区間であり、一番険しい区間でもある。千頭駅の標高は298メートルで、閑蔵駅は557メートルである。ここまでの約20キロの道のりで255メートル登ったことになる。だが、閑蔵駅から井川駅までのわずか5キロメートル間の標高差は129メートル。いかに最後の一駅の道のりが険しいかがわかる。
 車輪をきしませながら20分走り、最後のトンネルを抜けると前方に威風堂々たる佇まいを見せる井川ダムがその姿を現す。いよいよ終点・井川駅へ到着間近である。

終点・井川駅と井川ダム

(上)井川駅のホーム
(左下)かつてはトンネルの向こうにまだ線路が続いていたらしい
(右下)井川駅の駅名標 60年の歴史が刻み込まれた風格漂う井川ダム
静岡・井川駅

 終点・井川に到着。
 井川駅のすぐ近くには、井川ダムというダムがある。というか、周りにはこのダムとダム湖である井川湖しかない。元々、井川ダムの建設のために敷設された鉄道なので当たり前といえば、当たり前である。
 井川ダムは1957年に完成した古いダムで、60年の歳月を経ることで、色あせたコンクリートが立派な風格を得て、今や古代遺跡の趣きさえ感じるような立派な姿になっている。もちろん古いとはいえ現役のダムで、今も日々発電が行われている。
 かつては井川駅から1km先の堂島という場所まで線路が敷かれていたのだが、現在は廃線となっていてその跡地を利用したダム湖の周りの散策路・廃線小路が整備されている。また、井川湖には遊覧船や無料の渡船が運行され、周囲も観光地としていろいろ整備されているのだが、いかんせんここまでの道のりは遠く、次の列車で帰らねばならないので、ダムの堤体をひとしきり眺めた後、早々に井川駅に戻り乗ってきた列車で千頭駅へ折り返すとする。

川根本・千頭駅

 2時間近い乗車時間を経て、再び千頭駅で大井川本線へ乗り換え。行きほど慌しくは無いが、のんびり散策する時間もないので、売店でおやつのじゃがりこを仕入れて、大井川本線のホームへ移動する。
 待ち構えていた帰りの電車は、緑色の旧・南海電車。名古屋人のおいらにはいまひとつなじみが薄いのでピンと来ないのだが、かつて高野山に向かう高野線で活躍した車両なのだそうな。高野線といえば関西随一の山岳鉄道、かつての姿を知っている人が見れば大井川鐵道の景色にもよく似合っているに違いない。
 定刻通りに出発した南海車両に乗り込み、徐々に川幅を広げていく大井川を見ながら、帰宅の途に就くとする。

 長島ダムまでの道のりが遠く、井川線も一日5本しか走っていないため、今回は長島ダム以外に寄り道が出来なかったけど、大井川鐵道の沿線には魅力ある観光スポットが他にも多数ある。
 紅葉の美しい渓谷・寸又峡、周りの山々への登山・ハイキング、大井川に架かる多数のつり橋、そしてSL。今回は日帰りだったが、またそのうちゆっくりと温泉旅行にでも行ってみたい場所である。

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