2022-07-18

関西ローカル私鉄の旅 (後編)

 関西方面のローカル私鉄を乗りぶす旅。
 スタートから13時間ほどが過ぎて、南から紀州鉄道、和歌山電鐵、水間鉄道、阪堺電車、北条鉄道を制覇。
 残りは、京都丹後鉄道と天橋立ケーブルカーと嵯峨野トロッコの3事業者となった。
 このうち京都丹後鉄道は、110キロ余り路線を持つ中堅規模の鉄道事業者。乗りつぶすのも一苦労なので、日をまたいで二日に分けて乗車することにする。

京都丹後鉄道

京都丹後鉄道 宮福線 福知山 - 宮津 30.4km 京都丹後鉄道の中心駅宮津駅 京都丹後鉄道 宮舞線 宮津 - 西舞鶴 24.7km 丹後の海の車内 かっこいいぞ
福知山・福知山駅

 丹波路快速で50分、終点・福知山駅に到着した。
 ここから先は、いよいよ京都丹後鉄道に乗り換え。
 京都丹後鉄道はかつて北近畿タンゴ鉄道と呼ばれた路線を、大手ツアーバス会社Willer Expressが引き継いだ、設立10年に満たない新しい鉄道事業者だ。京都方面から天橋立への足をになっている。
 路線は、天橋立近くにある宮津駅を中心に3方向に伸びている。福知山から宮津までが宮福線、宮津から西舞鶴方面が宮舞線、宮津から豊岡方面が宮豊線となる。ぼちぼち終電が近づいてきたの時刻なので、今日中に全線を乗ることはできず、この日は宮津経由で西舞鶴に向かい、宮津線と宮舞線を制覇する。
 残った宮豊線は翌朝に乗るわけだが、ちょうどおあつらえ向きの2日間乗り放題の切符「もうひとつの京都 周遊パス 海の京都エリア(2日乗車券)」があったのでこれを購入した。この切符があれば天橋立の連絡船にも乗れるので、明日乗車予定の天橋立ケーブルへの移動にも役に立つ。
 窓口で切符を買い、一階のコンコースのミスドでおやつも買ったので、準備万端で宮津行きの快速大江山5号に乗車する。予想外に乗客は多く、座席は半分弱埋まっているようである。
 福知山から宮津までは45分。とっくに日没を過ぎた時刻なので、車窓はひたすらに闇。特に何も見ることもなく、終点・宮津駅に到着した。

宮津・宮津駅

 京都丹後鉄道の中心駅・宮津駅に到着。ここで宮舞線に乗り換えて西舞鶴を目指す。
 西舞鶴行きの列車を待っていたのだが、やってきたのはなんだかかっこいい特急型っぽい車両。どうやら特急の間合い運転で、普通として運行されているらしい。
 藍色のメタリックな外観が特徴的なこの車両には、「丹後の海」という名前のついている。JR九州の列車のデザインで有名な、水戸岡鋭治のデザインだそうな。内外装ともにモダンな和のテイストでかっこよいのだが、驚くのがこのデザインが中古車両のリニューアルらしいのだ。確かによく見たら、内装はよくある特急車両に薄く木のパネルを貼り付けているだけの部分が多々ある。だが、その条件下で洗練されたデザインにまとめ上げるのがインダストリアルデザインの醍醐味で、あらためて水戸岡さんのデザインに敬服してしまった。
 特急車両なのでもちろんリクライニングシート。乗っている乗客は私を含めて二人しかいないようなので、全力で気兼ねなく倒すことができる。座っていない隣のシートまで倒してしちゃうもんね。
 そうは言っても、道中の車窓は相変わらずの闇の中。どんな場所を走っているのかわからぬまま、いつの間にか終点の西舞鶴駅に到着。どこかでもう一人の乗客は降りてしまっていたらしく、列車から降りたのは私のみとなっていた。

舞鶴・西舞鶴駅

 西舞鶴駅は、JR舞鶴線との共同駅。ご多分に漏れず大きな駅の端っこを間借りするように京都丹後鉄道のホームと改札がある。この時間なので、改札は無人。しーん。
 ホームと改札は小さいのだが、すぐ横に車両基地があり、京都丹後鉄道の車両が多数停泊しており、列車的には賑やかである。
 明日は早朝から豊岡に向けて出発しなくてはならないので、早々に無人の駅を後にすることにする。

西舞鶴駅 京都丹後鉄道 宮舞線・宮豊線 西舞鶴 - 豊岡 83.6km 車窓は丹後の海の絶景 (左)豊岡駅
(右)裏口みたいな場所から入ると現れる丹鉄の駅舎
舞鶴・西舞鶴駅

 日付が変わって翌早朝。西舞鶴駅に戻ってきた。
 乗り込む車両は、またしても「丹後の海」。今回もまた普通列車で、やはり貸し切り。のんびり2時間弱、丹後の海を眺めながら移動し、終点・豊岡駅に付けば京都丹後鉄道も全線制覇となる。
 途中の宮津駅までは、昨日も通った宮舞線だが、昨日の夜とはうってかわって青空が広がる絶景。左手に入江のような由良川が見えてきた後、河口付近で橋を渡るとそこから先は美しい若狭湾を横目に走行する。
 宮津駅から先は未踏の宮豊線。途中天橋立のそばを通るが、線路がやや内陸にあり、その姿はよく見えない。が、この後、すぐに戻ってくるのでそれまでのお楽しみとして取っておく。
 天橋立を過ぎてからは山に入り、景色的にはちょっと単調になる。
 そして、乗客の姿を数人しか見ることなく、終点の豊岡駅に到着した。

豊岡・豊岡駅

 豊岡駅も西舞鶴と同じくJR西日本との共同駅。山陰線の隅っこに京都丹後鉄道の改札とホームがあるのもよく似ている。駅舎もあるにはあるのだが、JRのホームの横に無断で建てた小屋の様相。やはり、無人。
 20分ほど時間があったので、ちょっと朝ごはんとも思ったのだが、そんな甘い幻想を打ち砕くほど人影はなく、店もない。駅はやたらと立派なんだけどねぇ...。
 仕方なくホームに戻り、やはり乗ってきた「丹後の海」で天橋立駅へと折り返す。今度は、次の小美浜駅までは快速として運転し、そこから先は京都まで直通する特急はしだてとなる。ちなみに小美浜は、豊岡の2つ先の駅で、快速として飛ばす駅は一つのみ。なぜこの区間だけ特急ではないのかは、まあ、歴史的なあれか、宗教的なあれがあるのですかね??
 特急はしだては、宮津駅でスイッチバックして向きを変える関係で、シートは後ろ向きとなる。後ろ向きのシートに座ると乗り物酔いするので反転させたいのだが、車掌に反転していいかと聞くと渋い顔をされてしまった。まあ、1時間ガマンするしかない。

天橋立駅 真新しい立派な駅舎 天橋立の観光船に乗って対岸へ移動 (上)観光船船内にカモメのエサが売られていたが、どうみても俺のエサ
(下)ケーブルカーの線路が見えてきた
宮津・天橋立駅

 名勝・天橋立の最寄り駅、天橋立駅に到着。さすがは功名な観光地、駅舎がやたらとでかい。しかも出来立てピカピカ。
 この次に目指すローカル私鉄は、天橋立を渡った向こう岸にある天橋立ケーブルカー。対岸までの移動手段は、バス、天橋立の上を徒歩か自転車、観光船の三択となるが、丹後鉄道の2日間乗り放題で乗ることができる天橋立観光船を選択する。
 地図で見ると天橋立駅は、天橋立のすぐそばにあるはずなのだが、駅舎を出てみても、そこに海の雰囲気が感じられない。
 ちょっとうろうろとさまよってどうにか天橋立観光船の乗り場にたどり着いた。ちょうど、船が出航するタイミングだったので慌てて船に乗り込む。
 船が出発するとき、天橋立と岸をつなぐ廻旋橋が回転する瞬間に出くわした。意外と速いスピード橋が回転していた。

 船は右手に天橋立を見ながら対岸へと進んでいく。天橋立は高いところから見下ろすイメージがあるが、海から見る砂州に映える松の姿もまた趣がある。こんな細長い砂州が消滅することなくその姿をとどめ続けるってのは不思議なものである。
 乗船時間は10分ちょっと。あっという間に対岸の一宮に到着する。船の中からも目的のケーブルカーの姿ははっきりと見えていたので、乗り場に向かって一目散に歩いていく。

天橋立ケーブルカー

天橋立ケーブルカーの麓駅 府中駅 丹後海陸交通 天橋立鋼索鉄道 府中 - 笠松 0.4km ケーブルカー 下から見るか上から見るか 笠松公園昇龍観からの眺め
宮津・天橋立ケーブル

 船着場から少し坂の上にある天橋立ケーブルカーこと、天橋立鋼索鉄道の乗り場に到着した。徒歩10分かからない程度の道のりだ。
 私はかねてから全国に23ある鉄道事業者によるケーブルカーの全制覇を目指してきたのだが、この天橋立ケーブルカーがついに最後の1本となった。
 高まる気持ちを抑えて、往復きっぷを購入し、発車時刻を待つ。
 発車時刻の5分前から改札開始、ここは当然の権利とばかりに、先頭かぶりつきの座席を確保した。
 しばらくして、ブザーが鳴るとゆっくりと車体が釣り上げられ始める。斜面を登り。中間地点で反対行きの車両とすれ違い、およそ4分で山頂側の笠松駅に到着。
 天橋立ケーブルカーは、ケーブルカーとしては正直これといった特徴は無いものの、登り切ったその先に天下の名勝・天橋立の股覗きが待っているというのが一番の売り。
 そんなことはどうでもよく、俺的には「ケーブルカー全国制覇の偉業の瞬間」となった。おめでとう、俺。ありがとう、俺。

宮津・傘松公園

 ケーブルカーを降り、駅舎を出るとすぐ眼下に天橋立の砂州が伸びており、その優雅な姿を一望することができる。観光地あるあるの妙な掛け声で記念写真を撮り、暴利で売りさばくマンのお出迎えを受ける。
 上空から逆さに眺めると龍の形をしていると言われる天橋立、有名なのは京都丹後鉄道の天橋立駅のすぐ裏手にある天橋立ビューランドからの景色なのだが、その対岸にあたるここ笠松公園の方が、股覗きの歴史は長いのだそうな。「股覗きの歴史が長い」とか、字面的には黒歴史自慢でしかないが、もちろんそんな話ではない。
 で、歴史ある股覗きの発祥の地なる由緒正しき場所が公園の奥の階段を登った先にあると言うので行ってみる。
 階段を登ること5分ほどで股覗きの殿堂に到着。その名も昇龍観という名のついた展望台らしい。何台かある股除き台に乗り、老若男女が股覗きをしている。見ていると、みなさんスマホで写真を撮っているのだが、基本画面回転ロックされてないまま撮影していらっしゃる。いや、見渡す限り全員の画面が律儀に回転しているように見える。
 「だったら股覗きでも、普通に写真とっても同じじゃね? いや、そもそも、撮った写真回転すりゃいいだけじゃね?」と言いたい気持ちを奥歯をかみしめてぐっとこらえる。多分、これは口にしたら二度とはシャバには戻れないタブーなのだろう。知らんけど

名勝 天橋立

宮津・傘松公園

 スマホの画面回転ロックの謎は解けぬまま、ケーブルカーの乗り場に戻り、2階のレストランで腹ごしらえをすることにする。
 カレーを食べながら天橋立を見ていたのだが、やはり美しい。そもそも論として、逆さで見なくても竜の姿に見えるような気がしてきたのだが、その思いも口にするまいとぐっとこらえることにする。
 カレーを食べ終えたら、下山し、天橋立駅に戻ることにする。
 天橋立ケーブルカーは真横にリフトも併設されており、きっぷは共通。帰りは眺めの良いリフトで降りることにする。

レンタサイクルで天橋立を走破 天橋立ビューランドからの眺め
宮津・天橋立

 対岸まではまた観光船で戻って良かったのだが、天気もよく時間もあるので、レンタサイクルを借りて自転車で天橋立を横断することにする。
 天橋立観光船の乗り場で自転車を借りると対岸の船着き場で乗り捨ても可能なのでとても便利。

 天橋立の距離は3キロ程なので、ゆっくり走っても30分あれば横断できる。まあ、気持ちよくサイクリングはできたけど、やはり、天橋立は海から眺めたほうが美しいですな。
 対岸で自転車を返却しても、まだ1時間ほど時間があるので、反対側からも股覗きをしておこうと、天橋立ビューランドに向かう。
 場所は天橋立駅のすぐ裏なのだが、踏切の関係でくるっと回り込んで徒歩10分ほどで天橋立ビューランドの入り口に到着する。
 こちらの地上から山頂までの足は、小さなモノレールとリフト。モノレールが混んでいたのでリフトで登っていく。やはりビューランドの方がメジャーらしく、天橋立ケーブルより数倍は乗客がいそう。
 本日は、昨日の雨が嘘のようにこの日は快晴。太陽に輝く海に天橋立が浮かんでいて、龍に例えたくなるのがよくわかる。いやね、でもね、くどいけど、逆さに見なくても龍じゃないのかい???

嵯峨野観光鉄道

(上)トロッコ亀岡駅
(下)トロッコ車両 先頭のリッチ号 嵯峨野観光鉄道 嵯峨野観光線 トロッコ亀岡 - トロッコ嵯峨 7.3km (左上)亀岡を出発すると、右側座席はしばらく岩ばかり
(左下)左側は保津川がよく見える
(右)保津川の急流 トロッコ列車をけん引するディーゼル機関車
宮津・天橋立駅

 二日間で関西の8つのローカル線を巡る旅、残りは京都の嵯峨野トロッコ列車のみ。
 天橋立駅から京都駅に直通する特急はしだて号に乗車し、途中亀岡駅から普通列車に乗り換え、トロッコの最寄り駅である馬堀駅で降りる。
 トロッコの終点はトロッコ亀岡駅という名前だが、最寄りのJR駅は亀岡ではなく、馬堀。軽いトラップだが、そんな悪意を見事にかわし、馬堀駅から徒歩10分ほどのトロッコ亀岡駅を目指す。

亀岡・トロッコ亀岡駅

 嵯峨野トロッコこと嵯峨野観光鉄道は、山陰線の複線化の際に廃線となった旧路線を観光鉄道として再生させた路線だ。ヨーロッパではこういった観光鉄道をよく見かけるが日本ではかなり珍しい。
 線路は保津川に沿っており、保津川の急流下りと合わせて、行きはトロッコ、帰りは保津川下りといった組み合わせでよく利用されている。
 が、今回は時間の関係と方向の関係で、保津川から見ると下り、鉄道的には上り方向の列車に乗車する。
 客車は5両で、後ろ4両は、窓の大きなアールデコ調のトロッコ車両、京都よりの先頭車両はリッチ号という窓のないオープン車両になっている。座席は全席指定で、JR西日本のインターネット予約サイトe5489でも座席を予約できる。せっかくなので、リッチ号の座席を予約した。
 嵯峨野トロッコの見どころは線路のすぐ脇を流れる嵯峨野川で、途中で一度橋で川を超えるため、左右どちらの座席からも景観を眺めることができる。という触れ込みなのだが、どちらかというと、京都方面に向かって左側の方がより長い時間渓流を眺めることができ、景色も美しいようだ。そんなことはつゆ知らず、僕は右側の席を押さえてしまったのだが、まあ、後の祭りだ。川の反対側の崖だって、十分に美しい。
 座席は四人掛けのボックス席で、一人の僕の前に二人の仲睦まじいヤングなカップルが座ることになった。まあ、確率的にはそうなるわな...。ボックス席で思い出すのは、昔の成田エクスプレス。成田エクスプレスも昔はボックス席になっていて、面倒な出張に向かう直前にカップルやら女子3人組に囲まれ、苦痛を味わいながら成田まで耐え忍んだものである。あの忌まわし記憶が蘇る中、列車は嵐山に向かって出発する。
 いかにも客車っぽい重厚感のある走り出しを堪能するまもなく、すぐに保津川の渓谷の中に吸い込まれていく。
 眼下を流れる急流、新緑の森、歴史を感じるレンガ造りのトンネルと見どころは絶えない。まあ、僕の座っている方は壁が続くわけだが、まあ、それでも反対側の座席越しに景色を堪能することができる。
 途中、トロッコ保津峡とトロッコ嵐山という駅に止まるのだが、保津峡駅は本当に渓谷の真ん中にあり、降りてもどこにも抜けられそうにない秘境駅のように見えた。驚くのはこの駅は、旧山陰本線の時代からある駅らしいということ。登山客あたりが利用するのだろうか?
 トロッコ保津峡駅を超えると、いよいよ川が右手に現れてくる。なんだか高そうな星野リゾートの星のや旅館を眺めて、次のトロッコ嵐山駅に到着する。
 ここから終点のトロッコ嵯峨駅までは、JRの山陰本線の線路を走り京都の町の中へやってくる。保津峡の渓谷から一瞬で住宅街に景色が変わり、キツネにつままれた気分になるが、オープン客車で近代化された線路を走るのもなかなかない経験である。

京都・トロッコ嵯峨駅

 しばらく山陰本線を走ったトロッコは、終着駅の直前で再び山陰本線から離れて、JR嵯峨嵐山駅のすぐ横にあるトロッコ嵯峨駅に到着した。
 嵯峨野観光鉄道も制覇完了。これにて2日間で8つの関西ローカル線を制覇する旅は無事完結。あとは、京都駅に移動して、新幹線で名古屋に帰宅する。もちろん、関西に来たからには東日本では入手困難となったカールの密輸は抜かりなく実行するつもりだ。もちろん、うすあじ、カレー、チーズ全て確保する所存である。

 今回8つの鉄道会社を制覇したことで、関西の全私鉄を制覇したことになった。目標の私鉄全線制覇へ一歩前進。
 それもうれしいのだが、天橋立ケーブルカーを乗車したことで、鉄道事業者による全国23のケーブルカーを完全制覇したことがとてもうれしい。
 2009年の夏、今は亡き青函トンネルの海底駅・竜飛海底駅で地上に上がるケーブルカーに乗ったのがケーブルカー全制覇を決意した瞬間。そこから13年かけて全国のケーブルカーを乗りつくした。
 斜面をまっすぐに力強く登っていく(吊り上げられているだけではあるが...)ケーブルカーの雄姿をしかと目に焼き付けた。

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