香港の地下鉄「香港MTR」を1日で制覇する旅。
朝、始発電車で出発して以来、将軍澳線、観塘線と順調に乗り潰してきたと思った矢先、パスポートをホテルに置いてくるという大失態に気が付いた。
なぜパスポートが必要なのかというと、東鉄線の北端の駅は出入り口のない中国への出入境専用の駅。駅に着いたら、いやが上にもでも中国側の深圳市に入境しなくてはならい。
つまり、今回のMTR全線制覇はパスポートなしでは達成できないのである。
そんなわけで、1時間かけてホテルにパスポートを取りに帰り、時間の余裕を全て失った状態で中国へ向かう。
しかし、この「強制中華人民共和国送致」システム、酔っ払って終電を降り過ごした人とかは、どうするんだろうね??
改札を出たら、そこは国境
新界 北区・羅湖駅
東鉄線の終点・羅湖駅に到着。ホームの至る所に「→深圳」という表示が掲げられている。
頭端式のホームの先頭にしか改札はなく、中国へ向かって前進あるのみといった構造になっている。
自動改札にタッチしてコンコースに出ても、出口はなく全ての乗客は「→深圳」と書かれた通路へ向かって歩いていく。
5年ほど前にここを通ったことがあるのだが、その時はイミグレーションに至るまでの通路に人が溢れかえっていた気がするのだが、今回はそうでもなさそう。
聞くところによれば、中国人の出入境が自動化され、ずいぶん人の流れがよくなったらしい。
出境時の日本人のパスポートもセルフ対応となっていて、パスポートをスキャンさせるだけで出国完了。電車を降りて数分、あっという間に香港から出国である。
香港と中国の間には、深圳河という川が流れている。1898年、イギリスが香港の領域を広げるために、深圳河以南の地域を99年間租借した。この時租借した深圳河以南、香港市街地の界限街という道路以北の地域が「新界」と呼ばれている地域である。
香港と中国のイミグレーションの建物は、深圳河を跨いだ長い渡り廊下で結ばれている。歩く歩道に乗って、窓の向こうに深圳河が見えるのだが、国を分かつにしては小さな川である。
さて、渡り廊下を渡り切ったら、今度は中国への入境手続き。
こちらは相変わらずののんびり具合で、かなりの時間ゲートの前で待たされる。
一人、軽く1分以上、列は10人少々しか並んでいなかったのだが、15分近く待たされて、ようやくおいらの番となった。
ニコリともしない審査官が、おいらのパスポートを穴が開くほど、しげしげと眺める。
次に水着審査でもあるのではないかと不安になるぐらい、じっくりと吟味した上、ようやく入国のスタンプを押してくれた。
さすが中国共産党、全くぶれない。
広東省 深圳市羅湖区・羅湖口岸
小さな川を渡って中国に入ると、周りで話されている言葉は変わらないのに景色が一変する。
ゴチャゴチャっとした商店、あまりにも巨大でいかつい入国審査の建物、そして遠くには新しく巨大な高層ビル群。
そして、なによりもの違いは、さっきまで街のあちこちにあふれていた英語の表記が極端に少なくなること。
英語の案内板がないので、地下鉄に乗りたいのだが、駅がどこにあるのか全く分からない...。
勘を頼りにエスカレーターを降りて行ったら、どうやらそれらしき場所にたどり着いた。
ビンゴ!
香港の東鉄線は北の端が二つに分かれていて、おいらは東側の羅湖駅から中国に入った。西側は落馬洲駅なのだが、そちらも羅湖駅と同じく出入入境専用の駅となっている。
そこで深圳で、落馬洲駅側に移動して、香港に戻るつもりである。
落馬洲駅は、深圳側では福田口岸というのだが、羅湖駅からそこまでは深圳の地下鉄で移動することにする。
それはいいのだが、ここで一つちょっとした問題がある。
羅湖から福田口岸までの地下鉄の代金は、たったの4元。しかし香港から移動してきたおいらは手持ちの元が1元もない。
4元なんて言う細かいお金は両替してくれないので、仕方なくATMでミニマムロットの100元を下すことになる。
で、その100元を握りしめて券売機に並んだのだが、無情にも券売機は100元札を受け付けてくれない...。
やむなく地下鉄の駅から一度出て、近くの商店でペットボトルのお茶を購入。5元なり。
ご存知の方も多いが、中国や東南アジアで売っているペットボトルのお茶は、緑茶もウーロン茶もジャスミン茶もみんな砂糖が入っている。サントリーのウーロン茶でさえ、砂糖ありとなしの両方が売られていて、マジョリティーは「砂糖あり」。
なんとなく買ったお茶も、しっかり砂糖が入っていた。あま~い!
砂糖入りの緑茶と聞くと、わりと「信じられない」と言われるのだが、日本だって自販機の紅茶にはたいてい砂糖が入っている。それを考えたら、そんなにおかしな話でもない。
そもそもサントリーのウーロン茶が発売されるまでは、無糖のお茶飲料なんて日本にも全く存在していなかったし、最初にウーロン茶を飲んだときは「こんな苦いもの飲めるか!」と思ったものである。
そんなこんなで、小銭を握りしめ、再び券売機へ。
タッチパネルの券売機で福田口岸までのきっぷを買うと、出てきたのは、ドンジャラのチップを思い出すプラスチック製のコイン。中にICチップが入っていて、改札を入るときはタッチ、出るときは投入口で回収して、再利用という形式のトークンと呼ばれるきっぷである。
台北など世界的には、この手のトークンはわりとよくみかける。
行き場を失くした90元余りの中国元をポケットにしまい、改札へ向かう。
なんとかトークンを購入できたのであとは地下鉄に乗るだけだと思ったのだが、改札の手前で行列ができている。
中国では、地下鉄に乗車する際、荷物のX線検査が義務付けらていて、空港でよくみるあの機械の前に行列ができているのである。
日曜日の昼前ということで、そんなに乗客が多いわけではなく、待たずに地下鉄に乗れたのだが、これ、朝のラッシュとかはどうなっているのだろうか?
まして、北京や上海みたいな人がやたらと多い場所の朝の地獄絵図は、想像だに恐ろしい。
深圳の地下鉄に乗車
広東省 深圳市羅湖区・羅湖駅
今度こそ、ようやく羅湖駅のホームに到着。始発駅ということで、すでに列車が待ち構えていた。
電車に乗り込もうとホームを歩くが、はて、この景色どこかで見たことがある。
ホームを覆う壁型のホームドア、金属製のベンチシート、さっき見たばかりの香港MTRにそっくりだ。
調べたところ、深圳の地下鉄の運営に香港MTRが関わっているらしく、駅や車両の作りだけでなく、路線図や駅の案内表示までよく似ている。そういえば、さっき使った券売機も香港MTRと同じもののような気がする。
う~ん、さっきまで、香港と深圳じゃ景色が違うと思っていたが、改札を潜ってしまえば、どちらも似たようなものである。
さて、福田口岸駅までの道のりだが、羅湖駅で地下鉄1号線に乗り、途中、会展中央駅で4号線に乗り換える。4号線もまた同じような車両で、特に代わり映えしない。30分弱で、福田口岸駅に到着する。
広東省 深圳市福田区・福田口岸駅
福田口岸駅は、口岸(イミグレーション)の真下に作られている。長いエスカレーターを上ると、すぐに出国ロビーに到着する。
福田口岸は、羅湖口岸の混雑緩和のため2007年に作られた、新しい入出境施設である。
羅湖に比べて広々とした作りで、建物そのものもかなり大きい。もちろん、いくら建物が大きくても出境審査官の不愛想さはかわらない。
どういう冗談だか知らないが、中国のイミグレーションのカウンターには、審査官の応対が良かったかどうかを5段階で評価するアンケートボタンが設置されている。アンケートなんかするまでもなく答えは決まっているのだが、とてもじゃないが「bad」を押す勇気はない。
中国から出ると、やはり長い渡り廊下で深圳河を越える。
申し訳程度に免税店もあるのだが、みんな足早に香港に向かっていく。
香港側の入境ゲートを抜けると、こちらも落馬洲駅のコンコースに直結している。
香港を出て、ちょうど1時間。なんとか戻ってくることができた。
香港に帰還、東鉄線制覇再開
(右)馬場駅を通過 #12 東鉄線 上水 → 紅磡(紅磡 (馬場経由) 行き) 広九直通列車 (2012/9 撮影)
新界 元朗区・落馬洲駅
落馬洲駅から香港MTR制覇、再開。
まずは、上水駅から二股に分かれていた東鉄線の反対側を乗り潰すことになる。
ところで、羅湖駅や落馬洲駅駅のある中国との境界近くは、イギリス統治時代の国防政策の名残で、今でも立ち入り禁止区域となっている。そのため、香港では珍しく手つかずの自然が残された地域となっていて、ぼちぼち見慣れてきた香港の景色とは一味違う、高層ビルの無い車窓を見ることができる。
新界 元朗区・上水駅
落馬洲駅の隣の駅、上水駅で一度下車する。
電車は東鉄線の南の終点・紅磡駅行きなので、このまま乗っていけば良いように思えるが、そうではない。
東鉄線の路線図をよく見ると、真ん中あたりの火炭駅の前後で、火炭駅を迂回する路線が点線で描かれている。そして、迂回する路線の途中には・馬場駅という駅がある。
この点線で描かれている支線が何を意味するかというと、ヒントは「馬場」という名前にある。
馬場とは競馬場のことで、「馬場駅」は、文字通り世界的にも有名な香港の沙田競馬場の場内に設置されている。この馬場駅、競馬が開催されている時間しか列車が運行されていない臨時駅で、それ故、路線図上では点線で描かれている。
で、香港MTR全線制覇を決行する本日は、当然、競馬開催日にぶつけてきている。
数本に1本の割合で、「馬場経由」の列車が運行されているはずなので、上水駅でしばらく待つことにする。
ホーム上のモニターを見てみると、どうやら次の次の列車が馬場経由のようである。
馬場経由の列車を捕まえて、終点・紅磡駅に着けば、東鉄線の制覇完了となるが、そこそこの長時間乗車となるので、東鉄線だけに設置されている一等車に乗車してみることにする。
ホームに設置された一等車用のリーダーにオクトパスをタッチし、10.2HKドルを支払ってから、一等車に乗り込む。(何らかの券が発券されるわけでも、検札に来るわけでもないので自己申告制度となっているっぽい)
一等車と言っても名前ほど上等なものではなく、単にごく普通のクロスシートが配置された車両である。
しかし、たかがクロスシート、されどクロスシート。朝から金属ベンチに座り続けた臀部に、クロスシートのクッションの心地よさがじわじわと染み渡ってくる。
ところで、MTRの列車内は飲食禁止となっていて、何かを食べている人は全くいないのだが、この一等車の車内では、何人かの人がハンバーガーを食べたり、コーヒーを飲んだりしていた。
考えてみたら、駅構内で食べ物を売っているのに飲食禁止ってのも変な話だよね。
途中、馬場駅を通過し、紅磡駅へと電車は進んでいく。
この東鉄線、今でこそMTRの一路線として組み込まれているものの、その歴史は長く、開通は今から100年以上前のイギリス統治時代の1911年に遡る。
元々は、九広鉄路と呼ばれていて、広州と香港を結ぶ長距離鉄道として建設されたものである。
実は、今でも紅磡駅を起点に、広州、北京、上海に直通する列車が1日10往復程運行されている。線路はMTRと共有しているが、駅の改札は別にあり、紅磡以外の駅は全て通過するようになっている。
5年ほど前に、一度、広州から紅磡までの直通列車に乗ったことがあるのだが、国際列車扱いなで、乗車時にイミグレーションを通過する必要があったりして、なかなか趣のある列車であった。
西鉄線へ
九龍 油尖旺区・紅磡駅
上水から50分ほどで、東鉄線の終点、そして、中国本土へと直する長距離列車のターミナル駅・紅磡駅に到着。出発から7時間が過ぎたにも関わらず、ようやく4路線目が終了。まだまだ7路線と軽鉄(ライトレール)が残っている。
紅磡駅は、現在、新たなMTR新線の乗り入れ工事の真っ最中で、なにやら工事用の覆いがあちこちに建てられている。
次は、新界西側へと延びる西鉄線に乗り換えるのだが、同じホームの反対側に乗り換え列車が止まっている。
紅磡駅を散策することなく、5路線目の西鉄線に乗車する。
新界 元朗区・元朗駅
西鉄線は、終点・屯門まで行かずに、その3駅手前の元朗駅で下車する。
元朗駅から南の屯門碼頭まで、新界の西部を縦横無尽に走り回る軽鉄、ライトレールに乗り換えるためである。
今回の旅のもう一つの山場、軽鉄全線制覇へ向かうべく、改札を出て、軽鉄乗り場へと向かう。
が、朝、始発電車に乗って以来、ちょうど8時間が経過。いい加減お腹も空いてきた。本当はここらで昼食を食べようと思っていただが、いかんせん朝のパスポート騒動でのロスタイムの影響が大きく、全く時間がない。
ちょうど軽鉄乗り場の目の前にお持ち帰り中華屋さんがあったので、肉まんを購入。これが、かなりおいしかった。
さらにレッドブルで翼を生やしたところで、今度こそ軽鉄乗り場へ。
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