2022-12-07

立山砂防工事専用軌道と富山地方鉄道 (後編)

 江戸時代、安政年間に発生した安政飛越地震によって立山の大鳶山・小鳶山が山体崩壊を起こし、大量の土砂が立山にカルデラに流れ込んだ。その後度々発生する水害で土砂が富山市街地に流れ込み大きな被害をもたらしている。この砂の流出を食い止めるために立山カルデラには日本最大の砂防ダムが設けられている。その砂防工事のために造られたトロッコ軌道の見学会に参加した。
 悪天候の中、立山カルデラの見学を終え、いよいよトロッコに乗車する。

いよいよトロッコ乗車

トロッコは全長18キロ
停留所には木製の駅名標が立てられている トロッコの路線図
右側の水谷出張所から左の千寿ヶ原 立山砂防事務所に降りていく (左上)18段の連続スイッチバックで一気に下る
(右上)カルデラの底がうっすら見えてきた
(左下)途中、列車交換があった
(右下)湯川と真川の合流地点
立山・水谷平

 トロッコに乗る前にしばしの昼食タイム。本来はトロッコの脇で立山カルデラを見上げながらお弁当のはずなのだが、雨でそれどころではない。
 国交省さんが水谷平出張所の会議室を解放してくれたのでそこで持参したおにぎりを食べる。
 しかし、この雨の中、トロッコからカルデラを見ることができるのか不安が募る。

立山・水谷平

 昼食を終え、いよいよトロッコに乗ってカルデラの底から立山へ旅立つ。
 乗車する場所は水谷出張所と呼ばれる場所で、夏季の間国交省の職員が常駐する施設なのだそうな。ここの標高は1117メートル。トロッコの終点は立山砂防博物館の裏手の立山砂防事務所なのだが、そこの標高が476メートル。標高差はなんと641メートル、スカイツリーを超える高さである。
 トロッコは4人乗りの車両3両と先頭に電気機関車という編成。座席は自由だが、俺が選んだ場所は最後尾の車両であった。最後尾の後部座席には国交省の職員が乗り込み、列車後方の安全確認を行うようである。
 出発してしばらくすると、これから下る谷底を見下ろすことができる展望所がある。らしいのだが、本日は悪天候のため通過なのだそうな。天気のせいとはいえ、そりゃ、あんまりだよ国交省...。で、そこを通過してすぐに最初のスイッチバックにぶち当たる。ここからなんと怒涛の18段スイッチバックで、一気に200メートルを下るのである。
 スイッチバックというと姥捨山駅のスイッチバックが有名だが、普通はスイッチバックの際、運転手が列車の反対側の運転台に移動するので、逆走を開始するまで少々時間がかかる。だが、この砂防トロッコは少し勝手が違うようだ。機関車で客車をけん引しているため、逆走区間は機関車は付け替えずに、後方から客車を押す形のようだ。
 そうなると運転手の移動もなく、テンポよくスイッチバック区間を前後していく。列車が終端区間に入るとすぐに信号が自動で切り替わり、一瞬の停止の後すぐに逆走を開始する。逆走から戻るときも一瞬で、最後尾の職員が笛を吹いたらすぐに出発。
 瞬く間に標高が下がり、谷底に流れる湯川が近づいてくると言いたいところだが、谷底方面は相変わらず白く靄がかかり何も見えない。時々視界が開けるときがあり、上方や下方が見えるのだが、この区間は坂ではなく崖。むしろ、たった18段のスイッチバックだけでよく上り下りができるものだと感心する。普通こんな崖ならインクライン(いわゆるケーブルカー)じゃないのかと思ったのだが、調べてみると当初はインクラインがあったらしい。インクラインががけ崩れで崩壊後、索道(いわゆるロープウェイ)ができ、最終的にこの18段スイッチバックになったそうだ。地盤が安定せず時々崩壊を免れないことから路盤の再構築がしやすい軌道線になったっぽい。
 途中一度、列車交換のために側線で待機し、スイッチバックを登っていく列車をやり過ごした。当たり前だが現役で動いている軌道鉄道なんだと実感する。

 18段のスイッチバックを降り切ると楡谷連絡所という駅というか工事事務所がある。係の方が待機してくれており、尽かするトロッコを見送ってくれる。(もちろん見送るのが仕事ではなく、なにかしらの作業をしているとは思う)
 窓の向こうにカルデラから流れ出た湯川に近づいてきた。そして、前方から真川という支流が流れてきて合流し常願寺川とななる。二つの急流が渓谷の下で合流する景色は壮観。ここが砂防の地でなければ間違えなく観光名所になっていたと思われる。なんで崩れちゃったんだろうね鳶山。
 楡谷連絡所から先は、この常願寺川に沿うように山を下っていく。残り20段のスイッチバックは数段づつまとまって何か所かに設置されていおり、時々ひな壇を降りるかのように一段、一段と標高を下げていく。
 常願寺川は砂防の本丸ということで、大きな砂防ダムがいくつもつくられている。気になるのが、どの砂防ダムもぼちぼちで砂で埋まりそうなこと。これは設計通りということなのか工事が追い付いていないのかどちらのだろうか?
 途中、対岸に何かいると思ったら、熊の親子だった。いや、車窓から熊なんか見えるか、普通?? 国交省さんすごいところで工事してますわ。展望台スルーしたぐらいで悪態をついて申し訳ない...。

カーブを曲がるトロッコ列車 (左)ゴールの立山砂防事務所の裏手の最後のスイッチバック
(右)立山砂防事務所車両基地
立山・立山砂防事務所

 スイッチバックとトンネルで斜面をやり過ごしながら18キロを走行し、ゴールの立山砂防事務所が見えてきた。
 最後に4段のスイッチバックを切り返したら無事ゴール。約2時間の旅だった。
 いろいろすごい景色を見せてもらえたし、絶対に体験できな工事現場に入れたのは素晴らしかったが、やはり天気がなぁ..。と、思っちゃうね。まあ、言ってもしょうがないんだけどね。

不二越・上滝線と環状線

立山から不二越・上滝線と立山線が分岐する岩峅寺駅へ移動 岩峅寺駅
線路をまたいで、不二越・上滝線のホームへ 不二越・上滝線で富山駅へ 現在高架工事中の地鉄富山駅
かつてはこの左側にもう2本線路があったのだが、現在は仮ホームで営業中
立山・立山駅

 トロッコ乗車を終え、興奮冷めやらぬまま名古屋に帰投と言いたいところだが、一つ、いや二つやり残したことがある。
 富山地鉄の不二越・上滝線と市内電車環状線の制覇である。まずは、立山から富山に向かう電車を途中の岩峅寺で降り、不二越・上滝線経由で富山に戻ることにする。

立山・岩峅寺駅

 岩峅寺駅で電車を降りると、変わりにたくさんの学生が電車に乗り込んでいった。どうやら俺とは反対に不二越・上滝線から立山線に乗り換えたようである。また、同じタイミングでやってきた下りの立山線から不二越・上滝線に乗り換える客もおり、跨線橋のない駅構内をホームから線路へと人が行き交っている。
 立山線に比べると不二越・上滝線に乗る乗客は少ないらしく、ホームには制服を着た女子学生が何人かいるのみである。
 立山線と不二越・上滝線はともに立山に向かうようにV字型の線路となっていて、それぞれのホームもVの字になっている。ローカル私鉄でよくみるのだが、とても好きな構造である。
 しばらくしてやってきた列車は元東急と思われるアルミ車両。余生を送るには立山の傾斜はきついと思うのだが、頑張って走っているようである。
 不二越・上滝線は立山線より直線的に富山の市街地に向かって走っているのだが、なぜか住宅が少なく田畑が多いようだ。ようやく家が増えてきたと思ったら、昨日市内電車でやってきた南富山駅に到着する。岩峅寺からここまで約20分。あと10分ほどで富山駅に到着する。
 富山駅の一つ手前の稲荷駅で本線と合流し、ここからは富山地鉄の鉄道線唯一の複線区間を通って地鉄富山駅に到着。地鉄富山駅は工事中で、本来4本ある線路の一つは閉鎖中で、さらに一つは本来のホームよりかなり手前の仮ホームで営業している。工事が終わると高架駅になるらしいが、どのような姿になるのか楽しみである。

富山・電鉄富山駅

 地鉄の駅のすぐ横に電鉄富山駅・エスタ前という電停があるのだが、せっかくなので5分ほど歩いて環状線の起終点である富山駅から市内電車に乗ることにする。
 環状線のホームで電車の到着を待つ。環状線と行っても富山の市内電車の場合、富山駅部分がスイッチバックになっていて、南から駅に入ってきてまた南に出ていく。
 富山駅を出発するとまずは富山大学行きと同じくやや右方向に直進する。その後3停先、昨日環状線を捕まえそこねた丸の内電停で左折し環状線しか走らない一方通行の路線に入っていく。
 丸の内電停は、その名の通り富山の城跡の脇にある。そこから堀沿いに東進し、右左と曲がりながら繁華街の中心を抜けていく。その後、環状線の独自ルートは終わり、南外山行きの線路に合流して富山駅に戻っていく。
 環状線は半時計回りの一方通行、大半は昨日も乗った路線だが、昨日はあいにくの雨の夜。あまり町並みが見えなかったのだが、今日はよく見える。城跡周辺の官公庁外、その南の市街地、そして北側の駅。今度はゆっくり歩いて見て回りたいね。

富山・富山駅

 環状線はぐるっと回って30分。すっかり日が落ちてきたところで、今度こそ名古屋に帰るとする。昔は富山までしらさぎが走っていたのだが、北陸新幹線の開業に合わせてしらさぎは金沢止まりになった。もうすぐ新幹線は敦賀まで伸びるので、もしかしたらしらさぎに乗るのもこれが最後かもしれないと思いながら、家路に着いた。

 念願かなって立山の砂防軌道に乗ることができた。
 38段のスイッチバックというからどれだけ急な坂を上っていくのだろうと想像していたのだが、乗ってみたわかったのは上っているのは坂ではなく崖。崖のへばりつくかのように何度もスイッチバックして必死に登っていくのである。
 よくまあ、こんな場所に線路を敷こうと思ったものだ。
 今回はトロッコで下る方向に乗車したのだが、おそらく上りの方がより迫力があったのではないかと思うし、晴れていれば「この高さを鉄道で上ったのか!」と感動できる気がする。乗れたことは大変ありがたいし、下りでも十分楽しめたのだが、せめて天気がなぁ...と思ってしまった。
 そんなわけで、もし抽選に当たったにも関わらず、雨天中止となってしまった人がいたのならば、ある意味ラッキーだと思って晴れの日を狙ってリベンジしてほしいと思う。

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