2022-12-06

東北 北海道 秋の北上作戦 (後編)

 仙台空港アクセス線、三陸鉄道、津軽鉄道、函館市電を乗り潰しながら長万部の謎の水柱を目指す、東北、北海道の旅。
 2日かけて仙台空港から三陸鉄道を経由して新青森までやってきた。
 続いては津軽鉄道の乗り潰しに取り掛かる。

津軽鉄道

リゾートしらかみで五所川原へ 五所川原駅の駅舎 津軽鉄道 津軽鉄道線 (左)アテンダントお手製の津軽半島観光クリアファイル
(右上)社内にはスズムシ
(右下)帰りの切符は硬券でした
青森・新青森

 早朝、新青森駅から五所川原駅に向かう。乗車する列車はリゾートしらかみ号。本来は美しい五能線の車窓を堪能できる人気列車なのだが、この日は8月の豪雨で鰺ケ沢-岩館間が不通となっており、肝心の白神山地や日本海にはたどり着けずに鰺ケ沢止まりとなっていた。そのせいか乗客はまばらでおそらく10人前後しか乗っていないのではないかというありさま。
 新青森からはまっすぐ五能線に入らずに、一度弘前に寄り道してから五能線に入るため、弘前の手前の区間は列車がスイッチバック式に往復する形となる。新青森から弘前まで約30分。イメージしていたより遠かったので、昨日のうちに弘前まで行ってもよかったなぁと思ったが、まああとの祭り。

五所川原・津五所川原駅

 弘前からさらに40分ほどリゾートしらかみに揺られて五所川原駅に到着した。ここから津軽半島を北上する鉄道が津軽鉄道である。
 よくぞ生き残ったという、日本屈指の辺境中の辺境の鉄道でで、JRの五所川原駅に隣接した津軽五所川原駅を起点に津軽中里駅までの約20キロほどを小さな1両編成の気動車が往復している。
 駅前から駅舎を見ると、歴史のあるというかガタが来ている津軽鉄道の駅舎と奇麗なJRの駅舎がならんでいる。三陸鉄道の盛や久慈もこんな感じだったが、ここは特に新旧のコントラクトがよりはっきりしている。津軽鉄道、いろいろとギリギリなんだろうなぁ。

 終点・津軽中里駅までの乗車券を購入し、さっそく乗車。乗客は10名ほど。意外といっては失礼だが思ったより多くの乗客を乗せて列車は出発した。
 出発すると列車後方でめんごいお姉さんがなにやらアナウンスを始めた。津軽鉄道にはアテンダントさんが乗車して沿線の紹介をするらしい。
 最初に紹介してくれたのは、なんと「すずむし」。列車の中の虫かごですずむしを飼っているのだ。お姉さんの説明を聞くまで、時折聞こえる虫の声は列車の外の声が聞こえてくるのかと思ったが、よく考えたらボロとは言えそれなりの速度で走る列車にすずむしの声など届くはずはない。耳を澄ましてみれば、確かに車両の前後から聞こえてきている。すずむし列車という津軽鉄道の名物らしいのだが、なかなかの気まぐれで鳴くときはずーっと鳴いているが、一旦、泣き止むとうんともすんとも言わなくなる。正直虫は苦手なのだが、確かに鳴き声はかわいいやつである。
 終点の津軽中里までは40分ほど。アテンダントさんの話を聞いているとあっという間に到着する。
 車内では、アテンダントさん手書きの沿線観光マップを印刷したクリアファイルを販売していた。アテンダントさんに感謝の気持ちを込めて1冊購入。味のある津軽半島のマップが記されているのだが、すまぬ、今回は全く観光する気はないのである...。

(左上)津軽中里駅は最北の私鉄らしい(北海道にはJRと公営鉄道しかない)
(右上)津軽中里駅の建物内にあった 駅ナカ吉田チャンコ食堂 のラーメン
(下)津軽中里駅の近くにねぶたが飾ってあった JRの五所川原駅のホームの横にある立佞武多の格納庫 デカい
中泊・津軽中里駅

 終点・津軽中里駅に到着した。行き止まりの線路の脇にホームがあるだけの小さな駅だが、五所川原と違って比較的新しい大きな駅舎が建てられていた。
 駅舎の中にちいさなカウンターの食堂があったので、朝だか昼だか中途半端な時間だがラーメンを注文した。普通の中華そばだが出汁の香りがとてもよかった。
 津軽鉄道のアテンダントさんによると駅の近くにねぶたが飾られているということなので、少し歩いて見に行く。ビニールハウスの中にねぶたが飾られているのだが、4、5メートルはありそうで近くで見るとかなり大きい。ねぶた祭り、一度は見てみたいが、正直祭りって人が多いし、なんだか体育会系のイベントっぽくて苦手なんだよねぇ。クラブ活動とおなじぐらい苦手だ。
 もうひとつアテンダントさんが教えてくれたのは津軽中里駅の近くに宮越家という邸宅と庭園があり、年に一度この時期のみ一般公開しているという情報。年に一度と聞くと行きたくなるのだが、アテンダントのお姉さんからその話を聞いたのは帰りの列車。いや、もう手遅れですがな...。

五所川原・津軽五所川原駅

 乗ってきた列車で折り返すパターンで津軽五所川原駅に戻ってきた。
 ところで、朝、リゾートしらかみで五所川原駅に着いた時から気になっていたのだが駅の横にやたらデカいシャッターがある。ロケットでも格納庫かよと思っていたのだが、よくよくみたら立佞武多(ねぶた)の倉庫を書いてある。
 このあたりのねぶたは立ち姿で全長が20メートル以上あるらしい。デカい。ガンダムよりデカい。というかモビルアーマーかよ!
 近くに立佞武多の実物を見ることができる施設があるらしいのだが、時間が足らず今回は素通り。是非、実物を見てみたい。

津軽海峡フェリー

青森ターミナル 津軽海峡フェリー船内
(上)ビューシートと座席からの眺め
(下)船内にはフェリー名物(?)の冷凍食品自販機 函館ターミナル 函館ターミナル近くのラッキーピエロ
あえてのオムライス
オムライスを食べていると終バスを逃すので、2キロ先の駅まで歩く羽目になる
青森・津軽海峡フェリーターミナル

 青森から函館までは北海道新幹線で移動...といきたいところだが、今回は船で移動することにする。
青函トンネルが開通した後、国鉄の青函連絡船は廃止となったが、民営の津軽海峡のフェリーは現在も健在である。津軽海峡フェリー青函フェリーの2社がそれぞれ1日8往復フェリーを運航している。
 どちらも貨物主体のカーフェリーなので、それぞれのターミナルまでの道路は立派だが、徒歩移動のための公共交通機関が数えるほどのバスしかない。時間の関係で新青森からタクシーでフェリー乗り場に向かう。
 駅から10分ほどで津軽海峡フェリーのターミナルに到着。比較的最近建てられ建物らしく、真新しいくてかっこいい。
 予約していた乗船券をキオスク端末で発券して、3階の待合室に向かった。

青森・津軽海峡フェリー 青森ターミナル

 出航10分前、かなりギリギリの時刻になってから徒歩乗船の開始がアナウンスされる。やはり徒歩で乗船する人はかなり少なく10名前後である。
 今回は、ビューシートなる船首に近い場所のリクライニングシートの指定席を予約してみた。さっそく席の確認に向かうと、予想以上に快適な飛行機のビジネスクラスのようなシートが船首側の大きな窓ガラスに沿って並べられていた。ほぼフルフラットにリクライニングでき、前後左右のスペースも十分開いている。もちろん各座席に電源あり。これは神。
 座席を確認した後、船内の探索に出かける。まずはロビーを見てみると、オーシャン東九フェリーでも目撃した冷凍助六がここにもあった。う~む、フェリーと言えば冷凍自販機が世のトレンドなのか??
 次に向かった展望デッキは、それほど眺めはよくなく、一通り一周したところで、自販機でポテチを買い、自席に戻ってきた。
 出向前、風がかなり強かったので揺れを心配したのだが、さすがは360度陸地に囲まれた陸奥湾。ほとんど揺れない。
 そして、リクライニングシートの魔力に負け、気が付いたら函館港が目の前にあった。

函館・津軽海峡フェリー 函館ターミナル

 函館側の津軽海峡フェリーターミナルも真新しいく奇麗だが、こちらも当然のごとく交通の便が悪い。
近くに函館名物のバーガーショップラッキーピエロがあることに気が付いて歩いて店に向かったのだが、食後、函館に向かう交通機関が全くないことに気が付き積むことになる。
 結局、2キロ近く歩いて七重浜駅に向かい、30分以上待ってから道南いさりび鉄道に乗って函館駅に向かうことになった。フェリーから降りたら素直に連絡用のバスに乗る。これは鉄則。
 あ、ラッキーピエロのオムライス美味しかったです。(正直、ラッキーピエロのハンバーガーは微妙...)

函館市電

(上)函館市電路線図
(左下)一日乗車券はスクラッチ式 (右下)谷地頭から函館駅方面 坂を超えると絶景が見える 函館市電・函館どつく行 函館市電・湯の川行 函館市電・谷地頭行
函館・函館駅前

 今回の旅も4日目。今回制覇予定の鉄道は函館市電を残すのみである。早朝、雨の降りしきる中、スクラッチ式の1日乗車券を片手に函館駅前の電停に向かった。
 函館市電の路線は末端で二つに分岐するY字型になっている。中心部の函館駅前から3方向それぞれ往復すると全線制覇となる。
 まずは函館港をぐるっとまわって「函館どつく前」へ向かう。「どつく」と書くが、「どっく」と読む。なんのことかと言うと船の「ドック」のことである。明治からの歴史のある函館の名門造船会社「函館どつく」の前なので「函館どつく前」電停なのである。
 初めて函館に来た時、市電の先頭に記された名前の強烈の違和感にかなりのインパクトを覚えたものである。
 終点で港の眺望でも眺めたいところだが、先を急ぐのですぐに折り返しの湯の川行きに乗り込むことにする。

 函館駅前を通り過ぎ、函館の繁華街・本町へ向かう。函館どつく行きの乗客はまばらだったがさすがにこの辺りは早朝から多くの乗客が乗り降りしている。
 途中五稜郭最寄りの五稜郭公園前電停を通りすぎる。JRにも五稜郭駅があるのだが、こちらは五稜郭からやたら遠い。間違ってもJRで五稜郭に行こうなんて思っちゃいけない。
 その後、JRAの函館競馬場や市電の駒場車庫を通って終点湯の川へ到着。

 湯の川から谷地頭行きに乗り終点に着けば全線制覇なのだが、なんと乗ってきた電車がそのまま谷地頭行きに代わった。結局、同じ車両に乗り続けて函館市電全盛制覇をすることになった。
 谷地頭と函館どっくの線路が分離するのは函館駅を過ぎてから、それまでは来た道をそのまま折り返すことになる。途中の駒場車庫で運転手も交代したので、今、この車両に今日一番長く乗っているのは俺である。王様気分を味わいながら、最終目的地の谷地頭を目指す。

 函館山の麓で二股に分かれる線路を左側に進むと谷地頭方面となる。ここから終点までは緩やかな上り坂が続き、丘の上から下ったところで終点の谷地頭となる。これにて函館市電全線制覇完了。
 谷地頭から帰りに気が付いたのだが、谷地頭から函館駅に向かう車窓がとてもよい。市電が坂を上り、頂上につくと函館の街の景色が広がってくる。最後の最後に市電一番のビューポイントを見つけた。

函館・函館駅

 函館市電を制覇して函館駅に帰還した。今回の旅で、仙台空港アクセス線、三陸鉄道、津軽鉄道、函館市電と4つの私鉄の制覇が完了した。
 残すは、この旅の本来の目的、長万部に突如沸き上がった謎の水柱の見学である。
 函館9時ちょうど発、札幌行きの特急北斗5号で長万部へ向かう。

長万部の水柱

(上)駅の跨線橋から遠くに水柱が見えている
(左下)長万部駅の駅舎
(右下)水柱近くの飯生神社の鳥居
長万部・長万部駅

 函館から長万部まで1時間半。北海道新幹線が札幌まで延伸したときは函館新北斗から長万部まで廃線となることは確定的なので、もしかしたらこの路線に乗るはこれが最後かもしれないと車窓から見える内浦湾を目に焼き付けていた。

 長万部駅に到着して、駅舎へ向かう跨線橋の窓からもうすでに吹き上がる水柱の姿が見えていた。噂には聞いていたが確かにデカい。昨日見た立佞武多ぐらいはありそう。音がうるさいというニュースも聞いていたがさすがに駅までは音は聞こえてこない。
 線路を挟んで水柱は駅舎の反対側にある。自由通路なんてしゃれたものはないので、駅からかなり離れた踏切を渡らないと水柱側に向かうことはできない。
 なんだか夏が戻って来たかのような暑さの中、駅から数百メートル離れた踏切を渡り、水柱が見えていた森らしき場所に向かう。駅から半分ほどの距離は近づいたと思うのだが、未だ音も姿も見えない。
 水柱は飯生神社という神社の裏手の森にあるのだが、駅から歩くこと10分ほどで、その鳥居が見えてきた。やはり野次馬が多数訪れているらしく、警備員も配備されている。
 鳥居を潜り、右手に神社の境内に向かう階段があるのだが、そちらではなく脇にある車両用の坂道を登っていくととようやく音が聞こえたきた。ゴー、ゴー、ゴー、ゴーと断続的にうなるようなかなり独特の音である。地中にガスがたまっているという話もあったが確かにコンプレッサーで水が押し出されるような機械的な音に聞こえる。
 さらに近づくと森の木々の中に水柱が上がっているのが見えてきた。当然水柱の近くは立ち入り禁止となっているため、数十メートル離れた場所から森の中の水柱を見学することになる。
 よく見てみると高さのわりに、水量は少なく音ほどの迫力はないように見える。確かに水というよりはガスが噴出しているのだろう。
 水量は少ないとはいえ、こんなものが突然裏庭から噴出し、24時間出っぱなしではたまったものではない。

 やじ馬で見に来ておいてなんだが、轟音だけでも解決してほしいと思うので、帰りに飯生神社により、水の噴出が止まることを祈願しておいた。飯生神社の神様、お邪魔いたしました。

長万部の水柱

ウポポイ

ウポポイ(民族共生象徴空間)
白老・ウポポイ

 最後は新千歳空港から名古屋に帰るつもりなのだが、せっかくなので途中の白老駅にあるウポポイを訪ねてみることにした。
 長万部で12時14分発の北斗9号を捕まえ、1時間20分ほどで白老駅に到着する。いや、北海道はやはりデカい。道南を移動するだけなのに、なかなか千歳に近づかない。

 ウポポイは2020年にオープンしたアイヌの歴史・文化を学び伝えるナショナルセンター。国立アイヌ民族博物館を中心にアイヌの歴史的な文化を紹介している。
 博物館は、さすが「国立」という圧倒的なスケール。だだっ広いフロアにアイヌの歴史や文化がずらりと展示されている。日本史の中ではさらりとしか触れらていないアイヌの歴史は初めて目にすることばかりでとても面白い。
 館内の公用語はアイヌ語ということで、案内はアイヌ語と日本語、その他の外国語が併記されている。上映展示の場所では、「スマートフォンの電源をお切りください」といったアナウンスもアイヌ語で流れるのだが、スマホのような新しい単語をアイヌ語でどのように表現しているのかとても興味深い。

 博物館を出ると野外や工房でにもアイヌの文化を実演するプログラムが実施されている。アイヌの暮らしや狩猟、遊びの紹介、工芸品の作成方法を紹介している。
 さらに体験交流ホールでは、そこではアイヌの伝統的な踊りをライブで見ることができる。シノッという演目では、アイヌ民族の歌や語りを6つほど紹介している。特にイヨマンテ リムセという熊の霊を送る踊りは、激しい振り付けで見ごたえがあった。

 常日頃思うのは、今の日本は多様性というものに対してあまり不寛容すぎるきらいがあると思うので、一度ウポポイ訪ねてみて、北の大地に根付いていたアイヌの文化を学びにウポポイを訪れる価値があるのではないだろうか。

白老・白老駅

 見どころが多く、一日見て回ることができるウポポイだが、飛行機の都合もあり、日が沈む前に退散することにする。
 三度北斗15号に乗車し、新千歳空港に向かうとする。
 さらば、北海道。

 旅を終えた翌9月26日の未明、50日に渡って吹上続けた水がぴたりと止まった。
 翌週姿を現したパイプに栓がつけられ、あっさりと騒動は終わってしまった。幽霊の正体見たりではないが、当初自然現象かとも思われたが実は60年前の工事の跡だったそうな。
 それはそれとして、あと一日ずれていたら俺はわざわざ長万部に行ったにもかかわらず水柱を拝むことができなかった。まあ、何にしろ、水柱を止めたのは実質的に俺であるということは間違えない。(間違えある)

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