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2011/05/23

越美北線・越美南線 自転車連絡大作戦

 鉄ちゃん(鉄道マニア)用語に、”未成線”という言葉がある。建設予定があったにもかかわらず、実現しなかった鉄道路線のことだ。
 建設予定の線路が未成線となってしまった理由は、いくつかパターンがある。その中でも、1980年に施行された国鉄再建法(日本国有鉄道経営再建促進特別措置法)によって未成線となった路線は、全国に数多く点在している。
 我伝引”水”ならぬ、我田引”鉄”なんて言葉ができたぐらい、政治家が次から次へと、ド田舎に線路を敷設していった結果、国鉄が大赤字となり、1980年、国鉄再建法という法律で、建設中の全ての路線の建設が凍結され、多くはそのまま未成線となった。(国鉄改革は、国土交通省のホームページ参照。 こういうことができた分、当時の政治家は今の奴らより、多少はマシだったのかもしれないね)
 そんな国鉄改革によって生まれた未成線の中でも、なかなか稀有な例が、福井(越前)と岐阜(美濃)を結ぶ予定だった越美線だ。
 越美線は、北陸線の福井駅付近か高山線の美濃太田駅を結ぶ計画の路線で、国鉄改革当時、福井側は、北陸線の越前花堂駅から九頭竜湖駅まで(越美北線)、岐阜側は美濃太田から北濃駅(越美南線)までが開通していた。残った、九頭竜湖から北濃の間約30キロは、しばらく放置されていたのが、やっと工事が始まった矢先に、国鉄改革が実施され、建設が凍結された。その後、現在まで、そして、おそらく未来永劫、両線は繋がることはなかった。
 このような中途半端な線路の多くは、国鉄改革後、廃線、あるいは、第3セクターに移管され、結局、その後廃線という運命を辿っていくのだが、どういうわけか、越美線は南北分断されたまま今も生き残っている。
 越美北線は2004年の集中豪雨で多数の橋脚が流されたものの地元自治体の支援もあり全線復旧され、今でもJR西日本の線路として運行されており、越美南線もまたJRが発足する前に第3セクターの長良川鉄道に事業継承されたものの、なんとか生き残っている。

 で、本題。
 今回の旅は、ついに繋がらなかった越美北線と南線を、自転車をつかって無理やり乗り継いで、完乗するって作戦。

 長良川鉄道の終点の北濃駅からJR西日本・越美北線の終点・九頭竜湖駅までは、30キロ弱で、ロードバイクを担いでいけば、十分自転車で走行できる距離。
 ただ、距離は問題ないのだが、その途中に標高差500メートルを超える桧峠という難関が待ち構えている。
 なぜ北農と九頭竜湖の間が繋がらなかったかと考えれば、その間に山があったからで、山を貫くトンネルを作ろうと予算を確保している間に着工が遅れて、国鉄改革を食らってしまったってこと。そう考えれば、間に峠の一つや二つあるのは当然で、まぁ、しょうがない。
 なんだか、えらく前置きが長引いてしまったが、名古屋から自転車を担いで、長良川鉄道の美濃太田駅のホームに降り立ったところから、スタート。

美濃太田駅で高山線から乗り換え、長良川鉄道に乗り込む
空いていたので、車椅子置き場に自転車を置かせていただく。 約2時間かかって、終点北濃駅に到着。
太田・美濃太田駅

 JRの高山線、太多線が乗り入れる美濃太田駅から、長良川鉄道・越美南線は始まる。
 長良川鉄道は全列車レールバスのため、駅の自由通路から改札を通ることなくホームに降りることができる。小さな切符売り場と切符の販売機があるだけの殺風景なホームに止まっている、これまた小さな1両編成の車両に自転車を抱えて乗り込んだ。
 乗客の数は、ちょうど座席が埋まる程度、30名弱ぐらい。意外と多いなと思ったけど、ゴールデンウィークの午前中にこれでは、きっと、経営は厳しいんだろうなぁ。
 車窓は”ローカル線”という言葉から想像できる絵に書いたような山村風景が広がっていて、この景色は終点までの2時間ほとんど変わることなく続いていく。
 ”結構多いな”と思った乗客の殆どは、美濃太田から1時間のみなみ子宝温泉へむかう客だったらしく、みなみ子宝温泉駅で、乗客の数は10名を切ることとなる。

郡上・北濃駅

 みなみ子宝温泉駅から終点・北農までは約1時間。
 登山に向かうであろう乗客などが途中の駅で、ポツリポツリと降りていき、最終的にはおいらともう一人の乗客を残すのみとなった。
 終点、北濃駅は無人駅で、駅舎はあるものの、特に駅構内を示す柵はない。
 「自由に入ってきていいよ、ただし、電車は1日8本しかないよ!」という、おおらか、かつ、フリーダムなスタンスを崩さない、ヒッピーな駅だ。
 想像はしていたのだが、駅前に特に目立ったランドマークやら商店やらは全くなし。諦めて、さっさと、自転車を組み立てることにする。
 組み立てと言っても、前輪と後輪をフレームにハメ込むだけなのだが、えらく手間取り、30分以上かかってようやく出発体制が整った。
 ここから、一山超えて30キロ走れば、福井県の九頭竜湖駅に到着する。遂につながらなかった越美線の夢を背負って、いざ出発!

前方のえらい高いところに、おいらが走るであろう道が見える (左上)桧茶や で早くも休憩
(左下)いつのまにか、遙か下に北濃駅が見える
(右)どうやら、峠の頂上はこの滝よりもさらに上にありそう...
郡上・北濃駅

 北濃駅をスタートして1キロほど国道156号線を北上し、その後、左折して、県道314号線に入る。で、まぁ、始まった瞬間から、早速上り坂の登場。
 この県道314号線の前半に、この旅最大の難所・桧峠があるのだが、静かに潜んでいてくれればいいものの、行く手の山の中腹の結構高い位置に、Z上に折り返しながら登っていく山道が手ぐすねを引いて待っていてくださっている。あそこまで登らねばならぬのかと思うと、気が萎えてくるが、まぁ、進むしかない。

郡上・桧峠

 が、坂を登りはじめて、わずか2キロで、ダウン。
 おそらく、ハンガーノック(低血糖症)に陥ったらしく、全く動けない状態になってしまった。まだまだ、峠は始まったばかりで、大して坂も登っていないのだが、まぁ、日頃の運動不足の賜物というか、あっという間に、”旅終了”の危機。
 そんなとき、目の前にソフトクリームの”のぼり”を発見。とりあえず、一休みすることにした。
 桧峠の入り口に立っているお店は、桧茶やさん。いちご大福が名物らしいのだが、そんなことは露知らず、ソフトクリームを注文。しかし、それすらも食べることができない状態のおいら...。
 20~30分ほどして、なんとか立ち直ったので、もう少し頑張って峠を登ってみることにした。

 これ以降は、無理をしないようにと、きつくなったら、自転車を降りるようにしたのだが、となると、まぁ、要は、これ以降のほぼ全ての上り坂を自転車を降りて押していく結果になった。つまり、自転車での峠越えというよりは、ただの登山の様相。

桧峠頂上 標高983.38メートル 石徹白集落 越美線の駅が出来る予定だった場所
白鳥・桧峠頂上

 なんとか2時間かけて、桧峠の頂上に到着。
 頂上に掲げられた”桧峠”の看板には、標高は983.38メートルと記載されている。Google Earthによれば、北濃駅が440メートルぐらいなので、約540メートルを登り切ったということになる。
 歩いて登ったとはいえ、結構頑張ったぞ、俺。

白鳥・石徹白(いとしろ)地区

 峠というものは、頂上を過ぎれば、当然、下りが始まる。ゴールの九頭竜湖まで途中に峠はなく、此処から先は、ほぼ下り一辺倒となる。
 桧峠頂上にゴルフ場があるため、そこまでは、そこそこ車の行き来があったのだが、ここからは、めっきり車とすれ違わなくなった。
 そんな、車の来ない山道を自転車で一気に下ると、石徹白(いとしろ)地区という小さな集落に辿り着く。この集落のどこかに、越美線の駅ができる予定だったそうな。集落の外れにスキー場があるので、冬期はそれなりの賑わいがあるのかもしれないが、シーズンオフの今は、閑散としている。駅ができても、果たして乗客がいたかどうか...。あるいは、駅が出来ていたらこの集落ももう少し栄えていたのか??
 それにしても、峠ってのは、登る時はえらい時間かかるけど、下るときは一瞬。世界中全ての坂が下り坂だったらいいのに。(俺の人生みたいに...)

石徹白地区を過ぎるとぐっと道幅狭くなり、いつの間にか福井県に... (上)石徹白ダム
(下)山原ダム
大野・小谷堂

 石徹白地区からは県道127号線で福井へ向かうこととなる。
 福井県境を超えてしばらくまでの道は、極端に道幅が狭く、車が2台すれ違うことができないほどの幅になる。
 道は石徹白川に沿って下っていくのだが、川と道の間にガードレールもなく多少転落の恐怖と闘いながら、自転車を漕いでいくことになる。(川の流れが早いこともあって、自動車とすれ違うときは、実際、かなり怖い)
 渓流釣りを楽しむ人々を時折見かけるが、それ以外に人を見ることは全くない。
 県道番号を示す六角形の標識で、いつの間にか福井県に入っていることに気がついたのだが、途中に県境を示すような標識はなかったような気がする。

 福井県に入って数キロほどで、石徹白ダムに到着。ここまで来ると、道は立派な2車線道路になり、転落の恐怖はなくなるのだが、走行する車がさらに激減し、あまりの静けさに別の意味で恐ろしくなってくる。
 さらに、5キロほど先に山原ダムがあるのだが、これを過ぎると、ゴールの九頭竜湖まであと僅か。

道の駅・九頭竜湖 そこそこの賑わい 本物のの九頭竜湖駅 室内は暗く、人の気配無し (左)”物産展示コーナー”の看板の下はコインロッカー
(右上)1日わずか5本の運行
(右下)駅舎内は”焚火”禁止!?
大野・九頭竜湖駅

 県道127号線は、国道158号線にぶつかって終了。その交差点を右折して、数分で九頭竜湖駅に到着。
 実は、九頭竜湖駅から九頭竜湖までは結構距離があり、かつ、かなりの坂を登らないといけない。元気があったら、行ってみようかとも思っていたのだが、ここは、迷わず九頭竜湖見学を断念。

 越美北線・九頭竜湖駅の隣は道の駅・九頭竜湖となっている。こちらは、そこそこの賑わいを見せているのだが、本家、九頭竜湖駅の駅舎は、照明が落とされ人の気配は全くない。
 それもそのはずで、九頭竜湖駅から出発する列車は1日わずか5本。14時台の列車が発車したあと、次の列車の発車時刻はなんと18時台。時刻表があまりにまばら過ぎて、各時の数字が左寄せではなく、時刻に合わせてインデントされて表示されている。(59分に近いほど、右側に書かれている。なんだか、よけい、空白が目立つような気もするが...)
 出発まで2時間以上あるので、駅舎をブラブラ見て回ると(という程、広くはなく。せいぜい2LDKほどの広さ)、なんだか妙な、オブジェをいくつか発見した。
 まずは、駅舎に入ってすぐ左手の空間。”物産展示コーナー”の文字の下には、コインロッカーがポツリと置かれている。もちろん、全て鍵が刺さっていて”使用可”。コインロッカーが九頭竜湖の物産なのかどうかはわからずじまい。
 さらに、入口右手には、”駅舎内は、飲食禁止”、”駅舎内は、焚火禁止”、”駅舎内は、宿泊禁止”の看板。飲食禁止と宿泊禁止は、まぁわかるが、焚火禁止って...。たしかに木造駅舎なので、火気厳禁だとは思うが....。
 まぁ、そんなオブジェたちへのツッコミも、5分もあればツッコミ尽くす広さなので、あとはやることもなくなり、自転車をたたみ、発車時刻までの2時間、無人の駅舎で昼寝モードに突入する。(あ、宿泊禁止に抵触する??)

1日わずか5回しか止まらない九頭竜湖駅の列車
途中越前大野駅までは、スタフ閉塞方式
(つまり、その区間には、常に列車が1編成しかないので、信号が存在しない) 越前花堂駅にて、越美線南北連絡の旅は完結
大野・九頭竜湖駅

 駅舎は普段は無人だが、列車の発車時刻10分ほど前になると、委託販売らしき駅員が現われ、切符を販売してくれる。
 名古屋までの切符と途中の特急券を買おうとしたのだが、駅員に
「いや~、機械の使い方がわからなくて、特急券は発券できないんだよね。XXさんなら、操作できるんだけどね(知らんがな...)」と、曰われたので、特急券の購入は断念し、乗車券のみ購入する。
 しばらくして、定刻通りに、1両編成のレールバスが到着する。九頭竜湖駅にとっては、実に4時間ぶりの列車のお出迎えである。
 九頭竜湖で降りた乗客の数は、数十名と意外と多かったのだが、乗り込んだのはわずかに5名。しかも、そのうち2名は、乗ってきた列車にそのまま乗り込んで折り返す人達で、おそらく鉄ちゃんだろう。
 出発してしばらく、越前大野駅までは、トンネルが続く山間部の路線のため、乗客の出入りは殆どない。
 越前大野駅を過ぎると、多少は民家の明かりが見えるようになり、徐々にレールバスの座席が埋まってくる。とはいえ、座席が完全に埋まるには程遠い。

福井・越前花堂(えちぜんはなんどう)駅

 越美北線の終点は越美北線と北陸本線の交点・越前花堂なのだが、全ての列車は、北陸本線直通で、となりの福井駅が終点となっている。
 今回の旅は、越美線の旅ということなので、おいらは、越前花堂で降りて、福井に向かう列車を見送ることとした。
 時刻は20時をまわり、外は真っ暗で、雨も降ってきている。
 そそくさと駅名看板の撮影を済ますと、名古屋に帰宅するため、少し離れた北陸本線のホームへ向かった。

 こんなところで、越美線南北連絡の旅も終了。
 なんとか、標高差500メートルの峠なら(歩いて)登ることができることが分かったので、これで、ちょっと旅の幅が広がる気がしますな。
 次は、峠のある国道の旅にでも出かけてみますかな。

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